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第23話

 俺は色々頑張ったのに、中々警察から帰してもらえなかった。  男が地面に叩きつけたヤツのせいだ。   命はなんとか取り留めたらしい。  が、重症だと。  同情はしない。  一切。   自分を殺そうとしたヤツにまでは優しく出来ないからな。    でも、ソイツが受けた激しい暴力の跡。  恐怖で呆けて何も言えなくなっている、俺以外の目撃者であるソイツの仲間の怯えぶり。  恐ろしい男に山の中を追いかけられたと泣く被害者の女の子の証言。  俺以外の誰かがその現場にいたのは明白で。  でも、俺はひたすら、陸橋から飛び降りた時に頭を打って記憶が曖昧なんだと言い張った。  「覚えていない」は嘘の証言にはならない。  そう俺は常連さん達に教えられている。  嘘はつくな。  後で不利になるからな、と。  人を助けたヒーローなのに(実質活躍したのは男だが)俺が解放されたのは夜中だった。  女の子はちゃんと保護されているらしい。  良かった。  怖い思いを沢山しただろうと思うと胸が痛んだ。  連中は街中で女性を攫い、山の中で乱暴することを繰り返していたらしい。  「何を隠してるのか、誰を庇っているのか知らんが、まあ、お前はあの女の子を助けたし、被害者が増えるのを止めたのは確かだよ。・・・だが二度と無茶するな」  刑事さんはそう言って俺を解放してくれた。  女の子が助かった。  怖い想いをしたし、これからも思い出して辛い想いをするだろうが、でも、助かった。  それにホッとした。  警察所の出口付近で、内藤がまだサイクリング用の服とリュックとヘルメットのままで、心配そうに座っているのが見えた。  俺をみつけて駆け寄ってきた。  ハグされる。   内藤にしては珍しい。  それだけ心配してくれたのがわかった。  背中を叩く。  「悪い、心配かけた」  俺は言った。  「・・・してるよ。いつだって」  内藤は困ったように言った。  いつもいつもいつも。   俺に内藤は付き合ってくれた。  犬が死んだ時も。  今日だって。  それが胸にくる。  「自転車、ダメになった」  俺は泣きそうになる。  これはガチ。  俺の愛車。  「・・・待つよ。また一緒にロングライド行こう」  内藤がそう言ってくれたから、ちょっと楽になった。  そう、俺はまた、ロングライドには行けるようになる。  だからいい。  バイト増やすか。  内藤は自転車を輪行(自転車をバラしてバックに詰めて電車に乗ること。スポーツバイクはそれが出来る)出来るようにバックに詰めていたので、二人で電車で帰った。   もう終電だった。   この列車では最寄り駅までたどり着けないけど、仕方ない。  降りた駅から2時間歩くしかないだろう。  疲れきってるのに。  人助けとは。  自分に都合がよいことではないのだ。  「変な男の話、聞かれたけど、知らないって言ってる。本当に知らないし」  内藤が列車の中で言った。  俺は黙る。  後ろめたい。  内藤は小さく笑った。  「言えない理由があるんだろ。だから聞かない。でも、本当に困ってるなら言って。オレはお前の味方だから。なにがあっても」  内藤の言葉が滲みる。  「知ってる」  そう答えるしかなかった。    いつか説明する。  いつか。  内藤はまた微笑んだ。  内藤は優しい。  本当に優しい。  俺の親友だ。  電車の中だったが肩に腕を回して囁いた。  「ありがとう」   と。  「どういたしまして」  内藤の微笑みは本当に優しい。  「!!」  「??」  その瞬間、俺と内藤は身体に寒気を覚えた。  何?  何これ?  なんか冷たいモノで背中を刺されたような?  「今、何か感じた?」  内藤。  「なんか寒気が。やだな、この列車霊でも出るのか?」  俺。  俺達は気味悪く思い合った。  それでも俺は、男が出てくるシーン以外の俺が見事に陸橋から飛び降りてみせたり、俺が活躍したところだけを内藤に話しながら、終着駅までを過ごしたのだった。    

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