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第25話

 「盗聴か?隠しカメラか?それとも隠れていたのか!!何でそんなことするんだ!!」  俺は怒鳴ってはみたもののあわてて、自分の口を抑える。  喧嘩やトラブルだと思われて警察を喚ばれたら、男が困ったことになる。  いや、警察が来た方がいいのか俺のためには。   何で俺が、ストーカーで不法侵入者の心配をしてやらないといけないんだ。  「・・・・・オレのいないところでお前が死んだら嫌だ。オレが何も出来ないでお前が死んだりしたら嫌だ」  男は静かな声で言った。  引き起こされ、抱きしめられた。   男は震えていた。    「今日だってオレが間に合わなかったらお前はアイツらに頭を割られていたかもしれない。押さえつけられて犯されていたかもしれない。嫌だ。嫌だ。オレの知らないところでお前に何かあったら・・・」  男は震えていた。  大きな恐ろしい男が本気で怯えていた。  犯されるってのは、そんなのしたいのコイツだけだと思うんだが、殺されていたかもしれないのは本当だった。  確かに。  俺は犬が死んだ時を思い出した。  俺は学校を休んだ。  犬の側を離れなかった。    俺のいない間に死なないで。  俺を置いて行かないで。  死から犬を守りたかった。  怖かった。  離れられなかった。  愛していた。    男が本気で怯えているのがわかる。  俺に置いて行かれることが怖いのだ。  「嫌だ。死んだら嫌だ」  男は苦しい位に俺を抱きしめて、囁き続ける。    なんてことだ。   なんてことだ。  こんなの間違っている。  いるのに。  「GPSとか盗聴とか、ストーキングはやめろ。どこへ行くかは教えるし、助けが欲しい時は連絡するから」  俺は自分が何を言っているのかわからなかった。  何、ストーカーを安心させてんだ。    「・・・それでは安心出来ない。お前の位置情報を確認しないと心配でたまらない。本当はどこか安全な場所でオレが常に守りたい」  サラッと男はGPSを認めた上に、監禁願望まで出してきやがった。  「どこか移動する時はラインで知らせる。それでいいか?」  俺はイカレた恋人を説得しているみたいなことを言っている。  何言ってるんだ。  ホント。  でも、男の怯えは本物で。  その怯えを俺は知っていたんだ。  犬が死ぬまでの一週間。  俺はずっと怯えてたから。  あれは初めて愛したものが死ぬことを知った時で。  その恐怖は耐え難かった。  だから。  なんか。  安心させてやりたいと思ってしまったんだ。  「死なないでくれ。オレを置いて」  男の声は悲痛だった。  「死ぬかよ」  俺は鼻で笑った。   でも、そんなことは誰にもわからない。  犬がいつか死ぬのはわかってた。  でも、今だなんて、犬が弱るまでは思いもしなかったのだ。  「風呂に入りたい」  俺は男に言った。    甘えるみたいに。  こんな玄関じゃ嫌だった。  まだ、体の熱は収まってなかった。    「風呂」  俺は言った。   男と風呂に入るのを拒否していた俺が、男に風呂に入りたいというのは・・・。  そういう意味で。  男はものすごい勢いで俺を抱えたまま立ち上がり、風呂へと走っていく。  まあ、いいか。  良くないんだけど。  今日は疲れてて、判断力が落ちてて。  さすがに心がすり減っていたから。  だから。  いいや。  流されてしまえ。  俺は理性からのアラートを無視してしまったのだった。      

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