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13.恋する幼馴染

 奏汰 side 「そうちゃーん、生きてる?」 「頭がパンクしそうだ」 「あははは」  テストが終わった。  色んな意味で……  補修を取るなと深月先輩に釘を刺された俺と颯希は必死に勉強をした。  と言っても颯希の奴は俺と違って頭が良く、要領よくこなすタイプだったので何の心配もいらなかったんだけどな。  問題だったのは俺の方で、自分でも自覚しているくらいには勉強が苦手だと小学生あたりから気づいていた。  それでも中学は必死に勉強をして補修を免れていたし、今回も何とかなるだろうなんて考えは甘かった。  中学に比べて高校の勉強範囲が半端なく広かったのだ。  それでも俺は頑張った…… 「それにしてもあんなに机に齧り付くそーちゃん見たのは初めてだよ~。そーちゃんママも奏汰熱でもあるのかしら……って心配してたみたいだし」 「うっせ」  後はもう結果を待つのみ、どうにでもなれ!って気持ちだ……  あぁ、胃が痛い。  それから数日が経ち、テスト返却の日、大量のプリントを持った教師がのんびりと教室にやってきた。 「テスト返すぞ~」  そんな教師の声をどこか遠くから聞いているような気分に逃げた所でテスト返却から逃げられるはずも無く、「松永」と呼ばれた俺は「はい」と、小さく返事をして教師の元へ向かった。 「まぁ前回に比べればよく頑張ったんじゃないか、ギリギリだったけどな」  そう、ニッカリ笑って返されたテストの点数は先生の言う通り本当にギリギリではあったが何とか赤点を免れるだけの点数が書かれていて、思わず「よっしゃぁ!!」だなんて、ここが教室であるのもすっかり忘れて大声を出し、ガッツポーズを作ってしまった。  そんな俺の奇行にもクラスの奴らは一瞬驚いただけでまばらに拍手をしながら「よかったなー」だなんて言ってくれる。  俺はその言葉に「おう、さんきゅ」と言ってそのままいそいそと自席へ戻って言った。  暫くして颯希の名前も呼ばれ、目でその姿を追っていると、こちら側を向きピースサインをする颯希にほっと、胸をなでおろした。  こうして俺達のテストとの戦いは幕を閉じたのであった。  さぁ、後は夏休みだ。 ■□■ 「あー、夏休みだからって浮かれていないできちんと節度を守って遊ぶこと、後宿題は早めに終わらせとけよー。ってわけで解散」    そんな風に雑に担任が言葉を区切った瞬間クラス中から「夏休みだー」なんて声が湧き上がる。   「そうちゃん、部室いこ」    そんな周りに例に漏れず颯希自身もそわそわしながら俺に声をかけてきた。  まぁ俺も颯希と同じく決死の思いで勝ち取った夏休みに浮かれないはずもなく、「おう」  だなんて返事をしながら颯希と二人、部室へ向かった。    そんな俺たちを出迎えたのは深月先輩とヒロ先輩だった。   「やっ、お疲れ様」 「お疲れ~」 「お疲れ様です」    片手をあげて挨拶してきたヒロ先輩と深月先輩に軽く挨拶を返す。   「いやーでも本当に、奏汰が補修にならずにすんで良かったよー」 「ですね」 「よく頑張ったね」 「図書室で必死に勉強している姿何度か見かけたけど頭から湯気でてたもんね」 「う、まぁ、はい」    先輩二人からそんな風に言われて特に反論する事もなく肯定する。  そうして話していれば颯希が   「そう言えば雅也先輩はまだ来ていないんですね」    だなんて疑問を口にした瞬間部室が静まり返った。  え、何だこの空気。   「あー雅也……雅也ね……」    そう、部長の名前を言いながら遠い目をする深月先輩に俺も颯希も頭に疑問符を浮かべる。  そして何か気づいたのかハッとした顔をしながら颯希が言う   「まさか、雅也先輩は……!」 「うん、雅也はね、」    バァンッ   「俺がなんだって~?」 「部長!!」 「あはは、速かったねー雅也」    そうやって笑う深月先輩の隣から颯希が部長に駆け寄る   「雅也先輩!赤点取ってしまって合宿行けなくなったんですか!?だから来るの遅かったんですか!?先生に呼び出されていたから……」    そう言って憐みの視線を向けられた部長は一瞬ぽかーんとした顔をした後   「ちっげーよ!!」    と全力で否定した。   「あははははは」 「おいこら深月笑うな!」 「え、違うんですか?深月先輩が意味深に言うから俺てっきり……」 「颯希は素直だねー」 「わ、ちょ、裕先輩頭ガシガシしないでください」  そうやって颯希の頭を撫でくり回すヒロ先輩に思わず厳しい目を向けてしまいながらすぐにハッとして頭を軽く振る。  そうして2人から視線を逸らした俺は、そんな俺を見てニヤニヤした顔を浮かべるヒロ先輩には気づかなかった。 「たくっ、職員室には行ってたけど赤点で呼び出されたわけじゃねーよ」 「えっと、じゃあ何で?」 「…それは」 「合宿の申請締切が今日までってのを忘れてて慌てて出しに行ったんだよねー」 「うっ、」 「え、あんなに張り切ってて申請書まだ出してなかったんですか?」 「し、仕方ねーだろ!テスト前ですっかり忘れちまってたんだよ!!」  それなら仕方ない……のか?  なんて言葉が浮かんで消えて、口には出さなかったもののそれは皆同じ思いだったようで颯希は苦笑をヒロ先輩は爆笑、深月先輩はニッコリ綺麗に微笑んで 「本っ当に雅也はお馬鹿だねー」  何て言ったのを皮切りにいつもの如く部長が深月先輩にうがーっと反論をするのを深月先輩は華麗にスルーし、それを見ている俺達はまた始まったと二人のやり取りを眺めていた。  そうやってワイワイガヤガヤ騒いでいたら突然、何の脈絡も無くヒロ先輩がこちらに話を振ってきた。   「そう言えば来週って奏汰の誕生日だな」 「うっす」    そんな風に言われて思わず返事をする。   「そうですよ!7月27日はそうちゃんの誕生日なんです!!」 「何で颯希がテンションあがってんだよ」 「颯希は奏汰の誕生日何かするの?」 「勿論です!毎年そうちゃんの家族と俺の家族揃って誕生日祝いをするんですよ~」 「それは楽しそうだね」 「はい!」  そうやって俺を置いてけぼりにして会話を続けるヒロ先輩と颯希に胸がザワザワするが話題は俺の話題なので何とも言えない気持ちになってくる。  そう、毎年俺や颯希の誕生日は両家揃って誕生祝いをする。  特に颯希の母ちゃんは料理上手で料理だけでなくお菓子作りも得意なのだ。  なので毎回ケーキは市販のものではなく颯希の母ちゃんお手製のものを食べる。  これがめちゃくちゃ美味い。  本当にケーキ屋で売っても売れるんじゃないかレベルで美味い。  それに比べてうちの母さんは料理の腕は良いものの繊細な菓子作りはてんでダメでどうやったらそんな物が出来上がるんだよレベルで酷い……  だから俺と颯希の誕生日は毎年料理は母さん、ケーキは颯希の母ちゃんと分担されている。  今年の誕生日も勿論そうなっており、つい先日どんなケーキが良いか聞かれたばかりであった。  そうやって俺がケーキに思いを馳せていれば 「何?!奏汰が誕生日だって?それは本当か!」 「え、あ、はい」  先程まで一方的な言い合いから追いかけっこに発展し、深月先輩を追いかけていたはずの部長が足を止めこちらに来て俺の肩をガシッと掴んできた。  そのことに一気に現実に引き戻され、咄嗟に返事を返す。  そんな俺を見てニンマリ笑った後 「おーー!じゃあ皆で奏汰の誕生日パーティーするか!」 「え、別にいいっすよ」 「いーからいーから」  そう言った部長の言葉にいや、マジでっと言おうとした口をこれまた先程まで部長に追いかけられていた深月先輩に塞がれる。   「あいつはただ騒ぎたいだけだからさ、付き合ってやってくれ」 「はぁ……」  そう言われてしまえば特に反論することも無いので黙ってしまう。  と言うか、いや、別に全然良いんだけどこういうのって普通サプライズとかじゃねえの?  なんて思ってすぐにいや、颯希がいる時点でサプライズとか無理だな、あいつ俺に対して隠し事とか出来ねぇし、なんて自分の事は棚に上げて一人心の中で完結させた。    そうしてワイワイ俺の誕生日の計画について盛り上がる面々を見て一人蚊帳の外になった俺はまぁいいかと小さくため息を吐きながら笑った。

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