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37.恋する幼馴染
奏汰 side
「奏汰惜しかったねー」
「ビリからあっという間に3人抜いてたもんな」
「やっぱすごいわ」
体育祭の全プログラムが終了し、明日の文化祭に向けての準備をするために部室へ向かえば、俺と颯希を迎えるなり先輩たちが各々口を揃えてそう言ってきた。
「そうなんですよー!そうちゃんが頑張ってくれたからもう、本当に後ちょっとのところだったんですけど……」
俺よりも悔しそうにする颯希の言葉に苦笑してしまう。
「まぁリレーは繋げるスポーツなんで、俺一人早くても勝てないものは勝てないっすよ」
「いや、でもアンカーで3人抜きした時はそのままトップまで追い抜くんじゃねーかと思ったけどなぁ」
「さすがに陸上部の期待のホープ相手に最初の差があれだけあったら俺でも無理っす」
「何言ってんだよ、もう本当に後2.3秒の差だったくせに」
そう言いながら部長が俺の頭を乱暴に撫でるもんだから突然の事に対処できなかった俺の体は若干前のめりになって足がもつれてしまった。
「ちょ、急に頭掴むのやめてくださいよ」
「そうだよ、雅也の馬鹿力のせいで奏汰が怪我でもしたらどうするんだよ」
「なっ!?誰が馬鹿力だ、誰が!」
「ははは、確かに雅也先輩って力の出力壊れてますもんね~」
「言ったな裕~!こっち来い、お前も撫でちゃる」
「遠慮しときまーす」
「はいはい、二人ともふざけてないでそろそろ明日の準備するよ」
「もとはと言えば深月が……!」
「ん?何か文句でもあるの?」
ヒロ先輩と部長の追いかけっこが今まさに始まらんとしたタイミングで深月先輩が手を叩いて場の収束にかかった。
そんな先輩に食ってかかった部長であったが、深月先輩の綺麗な笑顔にたじろぎながら「ナンデモアリマセン」とカタコトで返事をしながらその場に項垂れてしまう。
うん、やっぱり深月先輩にだけは逆らっちゃいけないやつだな。
そう、俺が心の中で深く頷いたのと隣で「深月先輩って時々そうちゃんママに似てる」と颯希が呟いたのは同時だった。
「準備って言ってもよー明日はうちの生徒だけで一般公開は明後日だろ?この辺適当に机やら漫画やら並べとけばいいんじゃね。」
「あ、そっか。遊馬先輩たちが来て下さるのって一般公開の時だけなんですっけ?」
「そうそう。だから明日は簡単なソフトドリンクと、元から出来上がっているクッキーや、パウンドケーキくらいしか食事は出さない手筈だよ。」
「そう言えばそのクッキーやパウンドケーキは誰がつくるんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ?クッキーは俺が作って、パウンドケーキは颯希に焼いもらう予定だよ。」
「はい!」
「おっ、颯希お菓子も作れんのか?」
「人並み程度ですけどね。」
「深月先輩がお菓子作りできるのは去年から知ってたけどまさか颯希もお菓子が作れるとはな~。」
「でも裕先輩だって簡単な料理ならできるって言ってたじゃないですか。」
「料理はできるんだけどね、お菓子はダメだわ。あの繊細な感じが無理、大体大雑把にささってやってしまうからさ。」
「わかるわ~。」
「雅也は包丁も握れないでしょ。」
「うっ、いや、でも奏汰だって料理できないよな?いや、絶対できないだろ、なぁ、そうだと言ってくれ。」
「あーはは。」
そう詰め寄ってくる部長に曖昧に笑う俺の隣で颯希が躊躇いもなく言葉を発する。
「そうちゃんも料理できますよ~。俺の親とそうちゃんの親がいない時は二人で一緒に料理しますもん。」
その颯希の言葉に「ウソだろ~!!」と跪く部長の後ろで「なんだよそれ、新婚かよ。」と呟いたヒロ先輩の声は聞こえなかったふりをした。
「まぁそういうわけで、部屋の設備と、出し物はOKだね。後は制服なわけだけど……」
「あぁ!そうだったそうだった!!」
そう、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように勢いよく立ち上がり、にんまりと笑って部長が紙袋から取り出したのはヒラヒラのついた如何にも防御力が薄そうなメイド服だった。
「姉ちゃんが最終調整も終わって完璧だって自慢げに言ってたぞ。明後日は直接見にくるけれど明日の朝も着たら写メ送ってくれって言われてっから奏汰も颯希もよろしくな。」
そう、顔を輝かせていう部長に否なんて言えるはずもなく、俺は力なく項垂れるのであった。
何はともあれ明日から文化祭だ。
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