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45.恋する幼馴染
奏汰 side
「「おじゃましまーす」」
「おー、俺の部屋2階なんだよね」
そう言って先導するヒロ先輩の後ろに続いて階段をのぼる。
そうして2階に登り切ったヒロ先輩がくるりと後ろを振り返りにこやかに指をさしながら言った。
「あ、因みにここ兄ちゃんの部屋」
「え!りゅ、龍先生の部屋……」
「まぁ兄ちゃんが家出てからほとんど何にも触ってなくて殺風景なんだけどね、見る?」
そう笑いながら問いかけてきたヒロ先輩の言葉に首が取れるんじゃないかと心配になる程横に大きく振りながら颯希が即座に「遠慮します!」と答えた。
「そう?別に減るもんじゃないし見られて困るもんも無いけど」
「いやいやいや、とんでもない!龍先生が幼少期過ごした家に上がらせて頂いているだけでも恐れ多いのに、一ファンとして勝手にお部屋をのぞくだなんてそんなそんな……」
そう言って縮こまる颯希に一瞬ポカンとした顔をした後、ふはっと吹き出した。
「颯希って本当に兄ちゃんのファンなんだね」
「何を今更」
「いや、やっぱり何かその見た目や普段との差が、ね」
「あーいや、でもこいつ割かし好きな物に対してこんな感じですよ。ヒロ先輩のお兄さんの事話す時とか好きなアニメの話する時、どんだけ息続くんだってこっちがびびるくらいのマシンガントーク繰り出しますし」
「わーもう!そうちゃん、そんな風に思ってたの!?」
「確かに颯希の好きな作品語る時の熱量はすごいよね」
「ひ、裕先輩まで~」
そうやって情けない声を出す颯希を放ってヒロ先輩が手前の部屋の扉を開け中に入るよう促した。
「そんでこっちが俺の部屋~。適当にその辺座ってくれていいからさ。ほい、これクッション」
ぽんっと軽く放られたクッションをなんなく2つとも受け取れば「可愛げないな~」なんて理不尽に悪態を吐かれたがそれを軽く受け流して未だにあーだとかうーだとか唸っている颯希に渡す。
「ちょっと待ってな~。えーと、確かこの辺に片してた筈なんだけど……あれ、おかしいな、んーこっちか?……無いな……あっ」
特にすることもないので颯希と二人、机やら棚やらをゴソゴソしながらぶつぶつ言っているヒロ先輩の背中を見ていたら急に大きな声を出したかと思えばバッこちらを振り向き笑顔で
「ごめん、そう言えばCD今、兄ちゃんに貸してるの忘れてた」
と言った。
そして俺達が何か言葉を発する前に、携帯を操作して耳にあてた。
「あ、もしもし兄ちゃん?今ちょっといいかな、うん。あのさ、こないだ貸したCD返して欲しいんだけど、あぁ、うん、それそれ。今ね部活の後輩が来ててその後輩に貸してあげようと思ったんだけど兄ちゃんに貸してるの忘れててさー。え?あぁ、そう、うんその後輩。そうそう、ん?いいの、本当に大丈夫?また鈴原さん泣いたりしない?ふーん……まぁ兄ちゃんがいいなら良いけどさ、うん、わかったー。はいはい、じゃーねー」
そう言って携帯を耳から外し
「てなワケで今から兄ちゃん家行こうか」
と、言い放ったヒロ先輩の言葉にぴしりと固まった颯希を横目に俺も突然の展開に何も返せずに、ただ「は?」と間の抜けた言葉だけが零れ落ちた。
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