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58.恋する幼馴染
奏汰 side
そうやってお互い簡単に言葉を交わしていれば
「おーい、話し終わった?」
と、未だ愁也を掴んだままのヒロ先輩に声をかけられた。
「うっす」
「で、そちらの子は入部希望って事でオケ?」
「はい、村上昴です、よろしくお願いします」
「おー!村上くんも入るんだ!じゃあ昴って呼ばせてもらうね、俺のことは気軽に愁也って呼んで!」
「よろしく、九条くん」
「えぇぇぇ、完璧無視?!うぅ、昴って結構冷たいんだな……」
何だかんだ仲良くなりそうだな、あの2人……
なんて、2人のやり取りを見て思っていれば、よしっだなんてヒロ先輩が声を上げた。
「とりあえずこれで人数は揃ったなー!いやー良かった良かった」
「そーですねー」
「これで何とか廃部の危機は免れたかなー」
ガラッ
「あ、あの!漫画研究部ってここですか?」
良かった良かったと、喜ぶヒロ先輩と颯希の言葉に頷いていれば再びドアが開き、高い、女生徒の声が部室に響き渡った。
そちらの方を向けばそこには見知った顔がいた。
「神楽坂?」
「松永先輩、お久しぶりです!」
「お?何々、奏汰の知り合い?」
「え、もしかして彼女とか?」
「違うよ!」
そう言った愁也の言葉を呆れて否定しようとした俺よりも早く食い気味に颯希が大きな声を出して否定した。
「あ、えっと、中学のサッカー部のマネージャーちゃん、だよね?」
はっとした表情ですぐ我に返った颯希がわたわたと俺の方を見て同意を求めてくるから思わず「おう」と、短い返事を返す。
そんな俺と颯希のやり取りを見て面白そうにこちらをニヨニヨ見るヒロ先輩が視界にチラついてこの人はどんな時でもブレないな!なんて、言葉が浮かんだが流石にそれを言葉にすることはしなかった。
と言うか出来なかった。
「で、その奏汰の後輩ちゃんはどうしたのかな?奏汰に用事?」
「あ、いえ、その……あの!入部希望です!!」
「どこに?」
「漫画研究部室に」
「え、本気?」
「はい。えっと、その私兄と弟がいて、それで昔からアニメや漫画が好きだったんですけれど周りにそう言う事を話せる友人がいなくて、それでその知り合いである松永先輩もいて心強いですし、是非同じ漫画アニメ好きな方々と交流をしたいなと思って……ダメ、ですかね?」
そう言って、少し眉を下げて言う神楽坂に勢いよくヒロ先輩が首を振る。
「いやいやいや、全然!むしろ大歓迎だよ!!」
「ありがとうございます!えっと、神楽坂雪乃です、よろしくお願いします」
そう言って笑った神楽坂は本当に嬉しそうな顔をしていた。
と言ってもこの部活内で漫画アニメが本当に好きなのってヒロ先輩と颯希しかいねぇけど……
なんて心の中でだけ呟きながら颯希の方へ視線をやればバチッと目が合ってすぐに逸らされた。
え、俺なんかしたか?
さっきの事といい、何だか颯希の様子が変なのが気になる。
そう、1人で悶々としていれば下校を告げるチャイムが鳴った。
「おし!じゃあ新入部員も無事入った事だし、簡単な自己紹介して今日は解散な、俺は部長の笹原裕よろしく」
「向井颯希です、よろしくね」
「松永奏汰だ、まぁよろしく」
そうやって各々自己紹介を終え、追い立てられるように部室を後にしたのであった。
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