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64.恋する幼馴染
奏汰 side
「そーちゃーん、サラダの準備してー」
「はいはい」
颯希が晩御飯を作っている間風呂掃除やら洗濯やら残りの家事をしながら暇を潰していたら呼び出されたのでその声に素直に従い台所へ向かう。
「おぉー相変わらず美味そうな匂いだな」
「ふふん、匂いだけじゃなくて味だって自信作だよ!」
きらんっなんて効果音がしそうなウィンクを間近で受けながら「へいへい」と雑に返事を返す。
そんな俺に「もー!返しが雑」と文句を言いながらも作業をする手は止まることなく動いている。
「よし、盛り付け完了!」
「こっちもサラダ出来たぞー」
それぞれ机の上に料理を運び席につく。
「「いただきまーす!」」
パンっと手を合わせて大きな声で挨拶。
幼少期からこう言った当たり前の事を双方の両親が口うるさく言ってきたので近所のおばちゃんやおじちゃん達からは本当に2人とも礼儀正しくて良い子やね~と言われる。
何だかその言葉がむず痒くてけれど誇らしい。
「どうどう?美味しい?」
そう、目を輝かせながら聞いてくる颯希に素直に
「あぁ、美味いな」
と言ってやれば、自分から聞いてきたくせにキョトンとした顔をした後少し顔を赤らめながら「そ、そっか」とだけ呟いた。
おい、なんだよその反応可愛すぎか。
「へ?か、かわ……」
思わず心の声が漏れてしまったようだ。
「小さい頃のまだ可愛かったお前を思い出したんだよ、あの頃は素直で何言ってもありがとそうちゃんなんて言ってきて、可愛かったなぁーって」
「えー何さそれー」
「うるせっ、ほら食べねえと冷めちまうぞ」
よし!強引だったが何とか誤魔化せたな!!
危ない、今のは本当に危なかった。
と言うか、今日一日は本当にやばかった。
あいつへの恋心を自覚したのは小学5年生の頃。
小学5年生と言えば男女の違いが大分はっきり分かれてきて誰々が可愛いだの、誰々が好きだの言い合う時期大半の男子がクラスで一番可愛い女子の名前を言っていく中俺はその女子よりも颯希の方が可愛いと本気で思っている自分に気がついた。
流石にこれはおかしいだろと思ったし普通に男は女を好きになるもんだって思っていたからこれは何かの気の迷いできっと颯希よりももっと可愛い女子が現れて好きになる、そう思っていた。
そんな俺が白旗を振ってこの恋心を認めたのが中学2年生の時。
たまたまごみ捨て当番としてゴミを捨てに学校の裏庭へ移動している途中で見てしまったのだ。
颯希が女子生徒に告白されている所を……
最初はしくったな、別の道から行けば良かった程度に思っていた。
けれど告白していた女子が突然颯希に抱きついた瞬間身体中の血液が逆流する様な感覚に襲われ、そいつは俺のだ、勝手に触るんじゃねぇ!っと叫び出したい衝動に駆られた。
流石にそんな事しなかったがそんな事を思う自分に驚き、そして観念した。
あぁ、俺は本当に恋愛的な意味で颯希に惚れていて誰にもこいつを渡したくない、俺だけのモノにしたいんだって気持ちに嘘をつくことをやめた。
だからと言って自分から告白するわけでも惚れさせてやろうと何か行動するわけでもなく今でも1番仲の良い幼馴染ポジションに収まっているわけだが、それはまぁ仕方がない。
何か変に動いて今のこの心地いい関係を壊すのが怖い俺はただの弱虫だ。
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