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65.恋する幼馴染

奏汰 side 「おー、お前ら早いな。」 「あ、裕先輩、お疲れ様です~。」 「お疲れ様です。」 「おつかれ~。」 「あ!先輩、昨日のドラマ見ましたか?!」 「ドラマ??」 「龍先生の初脚本ドラマですよ!!俺、もう本当に毎週楽しみにしてて……!!昨日の回も最高でした!!」 「あはは、ほんと颯希は兄ちゃんの熱心なファンだなー。」 「大大大好きですからね!しかもそのドラマの主演が九条彰さんってのも凄いですよね!今をときめくスーパースターですし、何と言っても、」 「おっはよーございマース!!」 「愁也うるさい」 「ごめんごめん」 「お、おつかれさまです」 興奮した颯希が更に言葉を放つ前にバーン!と、勢いよく扉が開き外から1年生3人組が入ってきた。 「って、あれ、何か変なタイミングでした?」 固まっている俺たちを見て動揺する愁也の方へ無言で颯希が近づいていく。 「え、え、さっちゃん先輩??」 そんな颯希に戸惑いの声を上げる愁也に構うことなくガシッとその両肩を掴んだ。 「愁!」 「はい!」 「愁は九条コーポレーションの御曹司だよね」 「へ、あ、はいっす」 「じゃああの今をときめくスーパースターの九条彰さんがお兄さんで間違いないんだよね?」 「えっと、兄で間違いないです」 「……ごい」 「さ、さっちゃん先輩?」 「すごすぎる、まさか高校生になって入った部活で先輩と後輩のご兄弟が有名人でしかも2人とも俺が尊敬してやまないお二人だなんてこれなんて漫画的展開なんだろ、夢かな?現実だよねいや、もう本当に神様がいるならこうして出会わせてくれたことに感謝だよね、いや、でも一ファンである俺がお二人のご兄弟と一緒に過ごしてあまつさえお二人のプライベートな事を聞くようなことがあっていいのだろうか……いや、ダメだろ、いや、でも……」 「へ、あ、え?」 「さ、颯希先輩?」 「大丈夫ですか?」 そう、一息に捲し立てて1人で未だぶつぶつ何事か呟いている颯希に対し1年生達が目を白黒させるものだから思わず苦笑してしまう。 「あー、久しぶりにスイッチ入ったみたいだわ」 「スイッチ?」 「まぁ、所謂オタクスイッチ?的なやつだな」 「うっす、あんまり気にしなくていいから」 「「「え、あ、はい」」」 未だチラチラと颯希の方を気にかけながらでも!と、愁也が 「それを言ったら俺にとっては奏汰先輩の方がスターっすよ!」 だなんて目を輝かせながら言ってきた。 「はぁ?」 「だって本当に運動神経すごくて大抵の運動全部こなすじゃないっすか、奏汰先輩に憧れない男子なんてうちの高校にはいないんじゃないんすか?」 「確かにそれは少しわかる、かも」 愁也だけでなく昴までそんなことを言いだし、その隣の神楽坂も勢いよく縦に首を降っている。 「ふふふ、奏汰は大スターだからね」 「大スターなんて大袈裟な…。それにスターって言うなら颯希の方がよっぽど女子にキャーキャー言われてますよ」 女子だけじゃ無いけどな…… そんな自分の言葉に自分でダメージを受ける。 「分かってないなー奏汰は」 「はい?」 「確かに颯希はモテる。非常にモテる!何せ優しくて頭が良くてこのイケメン!完璧すぎるくらいだ」 「はぁ」 「だけどな!女子にとっての颯希はあくまで観賞用。あわよくば付き合いたい。その程度だ」 「そーそー。だってこの前颯希君は彼氏っていうよりなんかもう可愛い弟って感じだよねってクラスの女子に言われたもーん」 と、いつからこちらの話を聞いていたのか颯希まで混じってそんな事を言ってくる。 「だがしかし!奏汰、君は違う。君はまぁ顔は普通だし、身長も多少難ありだが、」 その先輩の言葉に何だ、喧嘩売ってんなら買うぞとばかりに睨みつける。 「そんな睨むなって!多少の欠点が霞むくらいにスポーツが出来るってだけで女子はキャーキャー言う。お前が運動部の助っ人に入った時とか球技大会や体育祭を思い出してみろよ、女子の黄色い声援の数。颯希がテレビ越しのスターと例えるならば君は身近なスターって事だ!特に高校と言う輪の中ではね」 「はぁ」 心底興味無い。 そういう風に先輩の言葉に相槌を打てば颯希の方から視線を感じそちらに目をやるとばっと視線を逸らされた。 そんな颯希を不審に思い、声をかけようとした俺の言葉は 「あ、あの、松永先輩、この後少しお時間よろしいですか?」 と言う神楽坂の言葉に掻き消された。

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