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66.恋する幼馴染

 奏汰 side 「すみません、あの、残ってもらっちゃって」 「いや、全然。どうした、何か悩み事か?」 「えっと、その……」  あの後、部室使っていいぞーなんて言って他の3人を引き連れてヒロ先輩は出ていき、部室には俺と神楽坂だけになった。  そう言えば神楽坂と2人で話すのも久しぶりだな、中学の頃はよく相談に乗ったりしてた気もするけれど。  だなんて、過去の事を思い出していれば小さく息を吸って真っ直ぐ俺の目を見ながら神楽坂が口を開いた。 「……きです」 「へ?」 「好きなんです、松永先輩の事が!」  そんな神楽坂の言葉に呆気に取られて何も言えずにいる俺を見て、わたわたと慌てながらしどろもどろに言葉を紡ぐ。 「と、突然こんなこと言っても困るってのは分かってるんです、でもずっと、中学の頃から好きでした。私って引っ込み思案でとろくて中々上手くチームのメンバーやマネージャの中に溶け込めなかった私を松永先輩が、松永先輩だけが優しく暖かく接してくれて、そのおかげで段々と他の方々とも話せるようになってそれで、その、感謝すると同時に好きになってたんです、先輩のこと」  そう真っ赤になりながらも視線を逸らすことなく真っ直ぐ言葉を伝えてくる神楽坂に俺も視線を逸らさず神楽坂と向き合う。 「悪い、俺全然気づいてなくて」 「松永先輩、ご自分の事になると結構鈍感ですからね」  そう言って笑った神楽坂の笑顔が一瞬、颯希と重なって見えた。  その瞬間、真摯にきちんと答えたいと、俺の口からはするりと言葉が零れていた。 「……その、神楽坂にそう言って貰えた事は凄く嬉しい、けど、悪い、俺ずっと昔から好きな奴がいるんだ。だから神楽坂の気持ちには答えられねぇ」 「知ってます」 「へ、」  俺のそんな言葉に間髪入れずに答えた神楽坂につい間抜けな声が漏れた。 「あ、えっとずっと松永先輩を見ていたから、松永先輩が誰を好きかは気づいていて、自分に勝ち目なんて無いって分かってはいたんですけどそれでもどうしても伝えたくて……だからその、どうにかなりたいとか、そう言うことは全然なくて、えっと、あの本当に深い意味は無いんです!ただの自己満足なんです、だからえっと、あの、聞いていただきありがとうございました……!」  そう言って俺が何か言う間も無く走り去る神楽坂の背中を見て申し訳ないという気持ちと同時に羨ましいと思ってしまった。  こうやって告白されるのは実は神楽坂が初めてではない、高校に入ってからは頻繁には無くなったが中学の頃は実は結構頻繁に呼び出されたりもした。  好きな人に気持ちを伝える。  その行動がいかに勇気がいる事か、それは十分過ぎる程分かっているつもりだ。  だからこそ告白してくれた相手に対して常に真摯な態度で応えよう、そう思いながら返す言葉は決まって同じ。  好きな奴がいる。  そう言って思い浮かべるのはあいつの顔。  俺は羨ましいよ、男と女、ただそれだけの違いで好きな相手に好きだと何の障害もなく言える彼女達が。  そんな風に少々センチメンタルな気持ちになっていたら突然「そうちゃん。」だなんて声をかけられた。  俺の事をそう呼ぶ人物なんて一人しかいなくて 「んだよ、颯希、先に帰ったんじゃなかったのか?」 「う、ん、ちょっとね」  だなんて歯切れ悪く言いながら俺から少し視線を逸らした颯希がそこにいた。

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