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12.恋する後輩

 裕 side  まぁそんな事をしながらも授業は単位を落とさないギリギリのラインで出席していたし、もともと頭が良かったからテストだって余裕で平均点は取れていた。  だから普通に進級はできて、最終学年になった時、進路の話が出て正直迷った。  教師になる気はもうこれっぽっちもなかった。  そもそも教師は自分の性格的に向いていないってのが自分の中で結論として出ていた。  だからと言って進学せずに働くってこともあまり考えられなくて結局、兄ちゃんが通っていた星雲高校を受験することに決めた。  そのことに対して母さんは「まぁ進学してくれるならそれで良いわ」と、呆れたように笑って、父さんは何も言わなかった。  3年間好き勝手しながらも成績は上の中くらいを保っていたのでもう好きにしろって感じだったのかもしれない。  父さんはもしかしたら兄さんが家を出て行ったことに対して少なからずショックを受けていたのかもしれないな、なんて今なら考えることができる。  兄さんが初めて父さんに逆らって声を荒げたあの日を時々振り返る時がある。  父さんは自分の意見が一番正しいと思っていて、だから俺や兄さんの意見や考えなんてものは求めていなくて、対話をして分かり合おうなんてしない人なんだろうなってのが俺の中で出た結論だ。  まぁ、その当時はそんな事すら考えることはなかったんだけれど  何はともあれ進学をすることに決めた俺は中学を卒業すると同時に仲間に俺がもうお前らとつるむ事も、喧嘩をすることも無いと告げた。  流石に高校生になってまで喧嘩に明け暮れるのは本格的に将来的にやばいだろって思っていたし、何より高校生になればオタクの祭典であるコミケに出れるのではという考えがあったからだ。  中学3年間、喧嘩に明け暮れながらもアニメや漫画への情熱は途絶えることなく続き、むしろ大きくなっていた。  そんな訳であっさりと脱不良宣言をした俺だったが、慕ってくれていた仲間たちに「何でっすか!?」と、驚愕された。  それに対して俺は曖昧に答えるだけであった。  と、長い回想はここまでにして、高校生になって2、3ヵ月はうるさいくらいに鳴り響いていた通知も半年、1年経てばうんともすんとも鳴らなくなって俺の中でも過去の事だと割り切っていたのに何で今更こいつらが俺に連絡してきたのかてんで心当たりがなかった。 「お久しぶりです笹原さん」  話しかけてきたのは当時俺に一番懐いていた男で、裕さん裕さんって犬みたいにいつも俺の名前を呼びながら後ろをついて回ってきていた。  そう、まるで今の愁みたいに  そんな奴が俺を名前でなく苗字で読んだ事にほんの少し寂しさを感じた。  けれどそれを出すことなく俺は奴に問いかける。 「おう、久しぶりだな。で、何の用だよ」 「……俺はね、笹原さん、あんたの事本当に尊敬してたんです。だからグループを抜けるって言われた時頭が真っ白になった。けどまぁ仕方がないとも思ったんです。あんたは俺たちと違って本物のバカじゃなかったから。だから諦めた。それなのに街であんたを見かけた時」  そんな男の言葉を遮るように「連れてきましたぜアニキ!」なんて漫画でよく聞くセリフが響き渡った。  そんな声の方へ顔を向ければそこにはもうすっかり見慣れた、ここにいるはずの無い人間がそこにいた。 「愁?」

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