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3.恋する有名人

 龍 side  それから健斗とつるむようになって俺の世界は広がった。  今までモノクロだった世界に色がつく、そんな表現を文章で読むたびに他人事のように感じていたのに、あぁ、こういう事なんだって身をもって知った。  たった一人との出会いが自分の世界を変える、そんな物語みたいなことが本当にあるんだって、自分の身にも起こるんだって、知った。  ずっと、ずっと親の敷いたレールを歩いてきた。  この先もそれは同じで変わることなんて無い、俺は父さんの操り人形でしかないそんな俺の考えを笑って吹っ飛ばした俺の......  ヒーロー  それからだ。  元から好きだった物語がもっと好きになったのは、そして自分でも物語を書きたい、自分の感じたこと、触れたモノ、見たモノ全てを詰め込みたいって思ったのは。  俺に夢ができた。  ■□■ 「小説家になりたい?」 「はい、だから俺は父さんや母さんみたいに教師にはなりません」 「お前が小説家?笑わせるな。そんな不安定な職について人生を棒に振るより俺と同じ教師になった方が良いに決まってる。お前は教師になるんだよ」 「っ......。俺はっ、俺の人生は俺のものだ!父さんの人生じゃない!俺は父さんの操り人形として生きる方がよっぽど人生を棒に振ってると思う!!」  その日、俺は初めて父さんに逆らった。  そうして父さんとの確執を抱えたまま高校卒業と同時に俺は家を出た。  それからは大学に通いながらバイトをし、そしてただひたすら物語を綴った。  次から次へと書きたいモノは浮かんできて俺はその全てを形にしようと勢いのまま書き続けた。  そうして大学4年の春。  俺の作品はある出版社の目に止まり大学生作家としてデビューする事があれよあれよという間に決まった。  作家としてデビューして本当に自由になれた気がした。  父さんの言う通り、教師として生きるしかないと思っていたあのころの呪縛から解放された気がした。  最初の頃は楽しかった。  当然だ、自分の夢が叶ったんだ嬉しくないわけがない。  けれど......その自由も段々不自由に変わっていった。  作家になる前は自由に自分の書きたいモノを好きなだけ書くそれでよかった。  でも実際作家になって、それを生業としていく為にはただ自由に自分の書きたいものだけを書く、それだけではダメだと言うことに気がついた。  よく趣味は仕事にしない方がいいなんて言葉を聞くけれどその通りだなと少し思ってしまった。  それでも書くことは好きだったから辞めるなんて考えは思いつかなくて色々なジャンルに手を広げる事で必死にもがいた。  そんな姿誰にも見せようとしなかった、見せたくなかったんだ。  1度、健にポロリと「お前は自由で羨ましいよ」と零したことがある。  そんな俺に健は 「お前の方がよっぽど自由だよ」  なんて笑って言った。  違うんだ......  そう見せてるだけで本当はいつもいっぱい、いっぱいなんだ。  必死に取り繕って、誤魔化して、  ......結局俺は自由なんかじゃない

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