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4.恋する有名人
龍 side
「笹原先生、脚本について確認したい事があるのですが......」
「ん?どこかな」
そう遠慮がちに聞いてくる九条君に意識的に人当たりの良い笑みを浮かべながら彼の質問に応えるべく振り返る。
そんな俺に真剣な表情のまま台本を片手に台詞の意図や状況について自身の見解を交えながら聞いてくる九条くんにまた少し、俺の中で彼への好感度が上がった気がした。
初めての顔合わせから数日。
ドラマはクランクインを迎えた。
あの日俺が言った言葉通りに彼は脚本について何かあると休憩時間や収録終わり等時間があるたびに俺に聞きに来た。
そんな彼を見て仕事熱心だなと好印象を抱くと同時に何故か親近感が湧いた。
それが何故か、なんて今の俺には分からなかったけれど一緒に仕事をするのならやっぱり反りが合わないよりも良いなって好印象を持てる相手と仕事をする方が楽しいし、捗る。
そんな事を考えながら目の前の彼について頭の中を整理する。
九条彰。
今最も波に乗っていると言われる若手人気実力派俳優。
そのルックスから若い女性に人気なのは勿論のこと演技力に定評があり舞台やドラマ、映画と引っ張りだこ。
人柄も良く、好青年と言うイメージで同性からの支持も他の男優に比べればわりとある。
常に笑顔で明るくそして謙虚で礼儀正しい。
そんな彼だから業界でも彼のことを悪くいう人はいない、らしい。
更にあの九条コーポレーションの御曹司、家柄も申し分ない彼は正に時の人ってわけだ。
そんな彼を職業柄身につけた趣味である人間観察をしていて違和感を感じた。
「作り物っぽいんだよなぁ......」
「何か言いましたか?」
声に出ていた。
「いや、なんにも」
「そう、ですか?」
不思議そうな顔をする九条君にただ笑って誤魔化すしか出来ずに俺ははははと笑う。
「ありがとうございました。いつもすみません。何だか沢山聞いてしまって」
「いや、むしろそうやって聞いてくれた方がこっちも伝えられるしそれだけ真剣に役に取り組んで貰えてるんだって嬉しくなるよ」
「だって俺笹原先生のファンですから!」
あ、これは嘘っぽくない......
彼を見ていると何だか面白い。
もっと彼を知りたくなるそんな気持ちにさせられる。
彼の作り物っぽい仮面の奥を見たくなる。
「九条君さ、この後暇?もし良かったら一緒にご飯食べない」
「え、いいんですか」
「うん、九条君さえ良ければだけれど」
「ぜ、是非!」
もっと彼を知りたい。
そんな気持ちがふっと浮かんだんだ。
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