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5.恋する有名人

 龍 side 「それ、疲れない?」 「え?」  あの後、まだ仕事が残っているという九条君と一旦別れ、個室で騒がしくないいつも通わせてもらっているお店に予約ができるか確認し彼と合流して食事や現場の話等で盛り上がってきた頃、俺はずっと気になっていた事を直球で尋ねてみた。 「その作り笑いとか、相手に気を使うの。九条君確かに世間で言われてる好青年だなーって思うけれどちょっと演技くさいなって俺は思うわけよ。ごめんね、急に。でもほら、おれモノ書きだからさ色々気になることって追求したいし色んな事知りたくなるんだよね。後はまぁほとんど趣味の人間観察?的な」 「はは、笹原先生って本当に面白い人ですね。そういう所、ほんとかわらないな.......」 「ん?」  最後の言葉が上手く聞き取れず聞き返した俺に何でもないですと笑って応える九条君にそっかと返す。 「俺、これでも役者なのにな。素人さんに見抜かれるなんて役者失格ですね」 「いやー俺これでも人を見る目がある方だから全然役者失格とか思わなくていいと思うよ他の人はきっと気づいてないだろうし」 「それ自分で言いますか」  そうやって笑う彼につられて俺も笑う。 「2回目だなぁ」 「何が?」 「本心を見抜かれたの」 「へ~。九条君の本性を見抜いた人が俺以外にもいるんだ」 「ちょ!本性って言わないでくださいよ。別に全部演じてるわけじゃないんですからね!ちょっと、まぁ人当たりよーく、生きやすくしているだけで......」 「はいはい」 「もー絶対分かってないですよね」  そう言う彼の顔は確かに作り物では無くて何だかそれが嬉しくなった。 「......高校生の頃に1度だけ」 「ん?」 「高校生の頃に1度だけ言われたんです。笹原先生に言われたことと同じ事」 「へぇ......」 「笹原先生も知ってると思いますけど俺の家って言うか父さんは結構大きい会社の社長で」 「結構と言うよりかなりだと思うけどな」  九条コーポレーション。  主に子供向けの玩具や勉強道具を売り出しており、他には無い目新しいものを取り入れ販売する企業だ。  明治中頃に創立され今では知る人ぞ知るメーカーとなっており小さい頃誰もが九条コーポレーションの勉強道具を使っていた、そう言われる程に影響力の大きい企業。 「ははは、まぁだから昔から色々あって......自分の気持ちをあまり表に出さないようにしてたんです。けどその人は初めて会った俺に突然切り込んできて、最初はこの人何言ってんだって思ったんですけどでも何だかその言ってくれた言葉がストンって胸に落ちてきてそれから何だか少しだけ心が軽くなった気がしたんです。だから、俺は頑張れるんです。その人のその言葉があるから」 「そっか」 「それにその時約束したんです」 「約束?」 「はい。でもその約束の内容は流石に内緒です。俺とその人の秘密ですから」  チクッ  そう言って笑う九条君の笑顔が眩しくて何故だか胸にチクリとした痛みが一瞬よぎった。 「俺もさ九条君程じゃないけど家って言うか父親と色々あってさでもある奴と会って自分の世界が一気に変わったんだ。人との出会いで自分の世界って変わるんだってことその時初めて知った」 「笹原先生にもいるんですねそういう人」 「まぁ、大切な親友です。そいつに出会ってずっと息苦しかった家を出て夢だったってのもあるんですけどそれより何より自由になりたくて小説家になったんです」 「そうなんですね......。会ってみたいなぁその親友さんに」  そう言う九条君の顔は少し寂し気で俺はその理由を聞くことが出来なかった。

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