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7.恋する有名人
龍 side
物語が書けない。
集中出来ない。
それはきっと......
「あの時の言葉のせいだよなぁ......」
俺が初めて執筆したドラマは俺や九条彰のネームバリューもあってかそこそこ視聴率も良く好スタートをきった。
担当編集者からは久しぶりの休暇を言い渡された訳だが突然の休暇にする事も思い浮かばず机に向かいパソコンを開いたのだが一向に文章が降りてこない。
そしてその原因が思い当たるのは打ち上げの後九条君とした会話の事。
あれ以来彼とは連絡を取り合っていない。
ピンポーン
「......」
ピンポーン、ピンポンピンポンピンポン
「っ~。人が真剣に悩んでるって時にだーれだ。家の呼び鈴鳴らしまくる不届きもんは!?」
バァッン
「うわっ、びっくりした......。もーいるならちゃんと出てよね!龍兄ちゃん」
「......お前か、裕」
「何だよ、その明らかに用事がないなら帰れって顔はさ」
「流石我が弟。よく分かってるじゃないか、兄の言い分が分かったならほら、さっさと帰れ」
「ちょっと!折角可愛い弟が遊びに来てあげたってのにそれは無いんじゃないの?て言うかいつもいつも裕~裕~ってうるさいから、久しぶりに俺の方から会いに来て上げたのに何その態度むかつく~」
「兄は忙しい」
「うっそだ~。鈴原さんに連絡したら暫くお休みをあげましたよ~って言ってたから知ってんだよ」
「あのへっぽこ担当」
「早く中に入れてよ、今日は面白いネタも持ってきたんだから!」
そう言ってずかずかと遠慮なく上がり込んでくる弟に押されリビングへ向かった。
「でね!とうとう俺の努力が報われたんだよ~」
「おー、あの幼馴染ズやっとくっついたんか~」
「もー本当にやきもきさせられたんだから!」
「確かに、お前めちゃくちゃ何かやってたな、色々空回ってたけど……」
「うん!でも本当に無事くっついて良かった~。これで俺の心労も減るよ」
「ははは」
「......」
「ん?どうかしたか?」
「何か兄ちゃん今日元気ない?」
ドキリとした。
まさか弟に見抜かれるだなんて
「んーそんな事ないぞ~」
「え~、だって兄ちゃん普段だったら目かキラキラしながらネタ帳引っ張り出して根掘り葉掘り聞いてくるのに今日はやけに静かだから」
日頃の行いだな......
「いや、ちょっと仕事関係で、な......」
「仕事関係......はっ、もしかして何も、書けないとか?」
「お前案外鋭いな......」
「兄ちゃんがわかりやすいんだよ~」
俺の事をわかりやすいなんて言う変人お前くらいだよ、我が弟よ。
「で、何でかその理由わかってるの?」
「お前グイグイ来るな~」
「そりゃ兄ちゃんの仕事の危機だからね!」
「本音は?」
「あの何にも動じない兄ちゃんを動揺させて小説すら書けなくさせた正体を知りたい」
「素直でよろしい」
気になるととことん追求したくなるのは血筋......だろうな。
「ある奴と話して上手いこと返す言葉がなくて結局言い逃げ?みたいな事されていや、違うな。俺が何も答えられなくてそうやって別れて数ヶ月。特に用事もない上に俺も向こうも忙しい身だから会うこともできずその日の言葉や相手の顔がずっと頭にこびり付いて離れないんだ」
俺何で弟にこんな話してんだろと思わなくもないが言葉にして口に出してみれば頭の中の霧が若干晴れたように感じた。そんな俺の話を聞き1度頷いた弟はビシッと指を俺に向け
「ふむ......それはズバリ恋だね!」
と言った。
「こ、い?」
こい
コイ
「恋!?」
「多分!!」
「多分かよ......」
思わず素っ頓狂な声を出した俺に弟は自信満々に多分なんて言い切った。
いや、そこは多分じゃなくてそうだって自信満々に言い切れよ......
言い切られても困惑するっちゃするわけだけど、
「だってずっとその人の事が頭から離れないんでしょ?兄ちゃんって人当たり良さそうに見えてあんまり他人に興味無いじゃん。俺や健さんとか身内には甘い癖にさ、だからまぁ恋とかは置いといて、その人は兄ちゃんにとって結構心を許してる部類に入るってことじゃない?て言うか恋だったら俺的に美味しい!!」
「最後の一言は余計だな!」
「あはっ」
「でも、そんなに頻繁に会ってたわけでも話したわけでも無いし」
「もー!兄ちゃん頭良いのにこういう事に関してはからっきしだね!仮にも小説家でしょ」
「仮じゃねーよ」
「あのね、一緒に過ごした時間も、まぁ大切だと思う!けどさ、時間とか気持ちには関係ないんだよ。好きだとか気が合うとか一緒にいたいとかもっと知りたいとか人間の感情ってもんはさ理性じゃなくてこう、グワーッて来るの!抑えられないの!!理屈とかそう言うの全部感情の前では無意味なの!意味無いの!!」
「......お前って高校生の癖に良いこと言うな。結構はちゃめちゃな理論で擬音語多いけど」
「とにかく!俺はもう帰るけど、龍兄ちゃんは至急その人に会いにいくべきだと思うよ」
「お、おう」
そう言って嵐のように去っていった弟を眺めながらポツリ呟いた
「そうか......恋、か」
そう言われてみれば確かに思い当たる節はある。
九条君が俺以外の誰かと仲良くしていたら気になるし頭を撫でられたらもやっとする。
彼の昔話を聞いた時だって俺以外に彼の気持ちに気づいた奴がいるそしてそんな奴の言葉で今の九条君がいると思うと胸が傷んだのも……
「俺が彼の事を好きだったから、なんだな......」
これは健斗の事何も言えねーな。
昔彼が歳下の子供に対して抱いていた想いを気づかせた事を思い出す。
あの時はこいつ何で自分の気持ちに気づかないんだと呆れたが成程、自分の気持ちほど自分では案外分からないものなんだな。
「しかも弟に気付かされるとか、情けない......」
今度何か奢ってやるか。
いや、我が弟に関しては萌の提供をした方が喜ぶのは目に見えているからな、イベントにでも連れていってやるか。
そう考えながら俺は携帯を取り出した。
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