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9.恋する有名人
龍 side
「お前の考えは分かった。だがな、そんな自分勝手許すわけないだろ。お前が教師にならずに小説家になると言うなら今後一切お前の面倒はみん。高校卒業までは親の義務として果たすがそれ以降は知らん。勝手にしろ」
そう言って俺の方を見ずに自室に戻った父さんの後ろ姿を俺はただ見ていることしか出来なくて、理解して欲しかったわけじゃない、応援してもらえるとも思ってなかった。
けれど、それでも心の奥底では認めてもらいたかった、自分で自分の道を選択して生きる事を許して欲しかった。
放棄するんじゃなくてきちんと最後まで話し合って欲しかった。
そんな色んな感情がごちゃまぜになって思わず俺は家を飛び出していた。
そうやって走り続けて数時間、いや数分も経っていなかったかもしれない…
俺は走り疲れて思わず土手に寝転んだ。
「何やってんだ、俺」
段々と冷静になってきた頭で一人そうごちて目を開け起き上がる。
「うわっ、びっくりした」
するとそんな声が真横から降ってくるものだから瞬間俺も驚きつつ何気なさを装いながら声のした方を向く。
するとそこには同い年くらいのブレザーに身を包んだ綺麗な男子がそこに居た。
「大丈夫ですか?こんな所で倒れてるから気分でも悪いのかなって思って……」
そう言ってニコニコしながら聞いてくる男子に俺は思わず
「嘘くさ......」
と呟いていた。
「へ、」
「あんたさ、そんな風に誰に対してもそうなの? そうやってさ、ニコニコした仮面取り付けてて疲れない?」
多分父さんとのことでイライラしてたんだと思う。
だからつい八つ当たりみたいに言ってしまった。
「な、んで」
「俺分かるんだよね。人間観察が趣味だからさ。嘘ついてるかついてないか」
「......すごいですね、初対面で急にそんなこと言い出すとか」
全くもってその通りだと俺自身思う。
だがもう口に出した言葉は戻らない。
「俺、星雲高校3年の笹原龍。あんたは?」
「えっと、海運高校2年の......」
そう言って彼は言葉に詰まってしまった。
そんな彼に無理に名前を聞くのも悪いような気がして
「いいよ、言いたくないなら」
「すみません」
「いいって」
そう言ってお互い沈黙してしまう。
そんな沈黙を破ったのは彼の声だった。
「何でこんな所で寝転がっていたんですか?」
「あー、親と進路の事でちょっと、な」
そう、言葉を濁してしまう。
「話したくないことだったら無理に聞きません。けれどここで会ったのも何かの縁ですし赤の他人にしか話せないことってあると思いませんか?」
そう言って微笑む彼の顔は先程と違って本音のような気がして自然と言葉が零れていた。
「小説家なんてすごいですね......」
「なれるかどうかわかんねーけどな。まぁ絶対なるけど」
「お父さん認めてくれるといいですね」
「まぁ......難しいだろうけど、ね」
さっきまで腹の底でグルグルしていたものが少しだけ吐き出せた気がした。
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