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10.恋する有名人

 龍 side 「で、あんたは?」 「えっと、」 「何でこんな所いたの?ていうかよく話しかけてこれたよね赤の他人なんだから放っておけばよかったのに」 「俺もまぁ......考え事してて、そしたら倒れてる人を見かけてつい、」 「考え事?」 「はい......」 「良ければ聞くけど。赤の他人にしか話せないこともあるんだろ?俺はあんたの名前も知んねーし」 「ふふ、確かに。そうですよね......。その、突拍子もない事かもしれないんですけど、聞き流して頂けたらいいんですけど......」 「はいはい」 「俺、ずっと小さい頃から周りの人に合わせて自分の感情を抑えて、自分とは別の感情を作って、皆の望む自分でいたらどんどん本当の自分の感情が分からなくなってきて自然でいようとすればするほど演じているようになって頭の中がごちゃごちゃしてきて、けれど人の前に立つとその人の望む自分でいようとしちゃってもうそれが反射的に出るようになってて一人でいるとポッカリ心に穴が空いたみたいになって本当の自分の気持ちが分からなくて......本当の自分って何だろうって考えていたらいつの間にかこんな所に来てました」 「そっか」 「変な話してしまってすみません」 「いや、全然。て言うか本当の自分がわからないって言ったけれどそんなの分かってる奴の方が少ないんじゃないかな」 「え」 「そうやって悩むって事は今の自分からどうにか変わろうってしているわけで今までずっと受動的に生きてきた自分を止めて自分の意思で考えて行動している証だろ」  あれ、これは誰に言ってるんだ。 「誰になんと言われようと誰がなんと言おうと自分がどう考えようとそうやって行動しているのはあんた自身だろ」  何でこんな偉そうに言えるんだ。 「自分の人生なんだ。そりゃ間違えることもある。けどそれは自分で悩んで考えて出した結果だから」  あぁ、そうだこれは......  俺が父さんに言って欲しかったことだ。 「自分の気持ちがわからないって、そうやって考えるのもあんたの紛れもない本物の気持ちだ。だからさ、もっと物事をシンプルに考えて自由に生きればいい」  俺が欲しかった言葉だ。 「笹原先輩って、何だか達観していて神様みたいな人ですね」  やめてくれ。 「俺そんなこと言ってくれる人初めて会いました。本当の俺ってなんだろうってずっとずっとモヤモヤしてて」  違う 「けど、笹原先輩がそう言ってくれてあぁ、こうやって感じた気持ちも紛れもない本物なんだって思えました。俺の欲しかった言葉をくれた」  違うんだ 「まだ全部を受け入れることは出来ないし多分これからも本当の自分や本物の感情なのかどうか分からなくなるかもしれないけれどそれでも、今、この瞬間少し心が軽くなった気がします。ありがとうございます」 「あぁ......」  お礼を言われるようなことは言ってない。  ただ、俺は俺が言って欲しかった言葉をこいつに重ねて自分自身に言い聞かせたに過ぎないんだ。  けれどそんな事言えるはずもなく、だから 「なぁ、役者になったらどうだ?」 「え」 「ほら、仮面を被ってるって言っただろ。つまりそれって演じてるって事でそれがあんたの特技って事だと俺は思う。だからそれを活かして役者になればいいじゃん」 「やくしゃ......」 「そんでさ、俺は絶対小説家になるから、いつか売れっ子の小説家になってもしその作品がドラマ化なんかしちゃったりした時はさ、主演として俺の作品に出てくれよ。約束」  約束をした。  これは紛れもない俺から彼にかけた言葉だから。  そんな約束に彼は嬉しそうに頷いた。

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