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11.恋する有名人
龍 side
「あの時の......そうか君だったんだ」
「だから、笹原先生の初脚本ドラマの主演に選ばれたって聞いてすっごく嬉しくて、あの時も結構ドキドキしてたんですよ。役者になって初めて顔を合せた時。たった一度しか会ったことがなかったけれどしっかり覚えていました。だって言葉遣いは丁寧になっていたけれど、雰囲気があの頃と同じだったから。すぐにあ、この人だってわかりました。でも、忘れられている上に、初めまして、だなんて。まぁ忘れているだろうなとは思っていましたけど正直ちょっと傷つきました」
だからあの時一瞬言葉に詰まったのか......
「ごめん......」
「いいんです、俺が勝手に心の支えにしていただけですし、勝手に神様だって思っていただけだから」
「俺はそんな、君に神様だって言ってもらえるほどできた人間じゃないよ。」
「そんな事ないです。俺にとって、あの時俺の欲しかった言葉をくれた。俺にこうしろああしろって言うんじゃなくて、それでいいんだって言ってくれた。嬉しかったんです。そんな事言ってくれる人いなかったから」
「あれは……本当は俺が、俺が言って欲しかった言葉だったんだ。ただ当時の君と自分を重ねて自分自身に言い聞かせてただけだったんだ」
「それでも、俺を通して自分を重ねていたとしても、言葉にしてくれた。それに、約束をくれた」
そう言いながら微笑む九条くんに言葉が詰まる。
「……前、九条君はさ、俺と君が似てるって言ったよね。俺もそう思ったよ。いや、今改めて思った。俺たちきっと似たもの同士なんだ」
「はい」
生きてきた環境もきっと考え方だって違うだろうに、何故だか俺と彼は似ている。
そうして、そんな彼に俺はいつの間にかどうしようも無く惹かれていたんだ。
「あ、俺ばっか話しちゃいましたね。笹原先生も何か言いかけていたのに、すみません」
「いや、全然」
「笹原先生の話ってなんですか?」
そう聞いてくる九条君の目は真っ直ぐ俺を見ていて、そんな彼と自分の視線が絡んだ瞬間、自然と口から言葉が溢れていた。
「うん、あのね、俺は君が好きだよ」
「えっ、とそれは人としてって事でいいんですよね?」
「いや、多分君が考えたもう一つの方」
「それって......」
「俺の好きは君の事、性的な意味で好きってこと」
「せっ......」
「急にごめんね。こんな事、でもさ、伝えたいって思った。さっき君と話して昔の事を思い出して君に惹かれているんだって改めて思った」
「おれ、は、」
「うん」
「その......ごめんなさい」
「まぁ、普通そうだよね。でも俺、」
ドサッ
「諦めが悪いから先に謝っとく、ごめんね」
「へ、んぅ」
ドンっ
「な、ななな急に何するんですかあんた!?」
「いやー勢いで押せばいけるかなって」
「最低ですね!」
「でも気持ちよかったでしょ?」
そう言う俺に目の前の彼はわなわな震えて......
■□■
「で、押し倒してキスして啖呵きった後、ビンタされて一気に酔いがさめたと」
「やめて、復唱しないで」
あの後、思いっきり九條君からビンタをされて我に帰った。
どうやらあの時の俺は自分でも気づいていないくらいに緊張していたせいでかなりお酒に酔っていたらしくその勢いのまま彼を押し倒してそのまま……
「あぁぁぁぁもうダメだ、絶対嫌われた。ほんと何であんなことしたんだろ、いや、そもそもよくあんなこと出来たな自分って自分で自分に思うよ、あれ、俺何言ってんだろ、はは、いや、でも本当になんであんな、あんな……うぁぁぁもう絶対絶対変態だって思われたよね、もうやだ、時間巻き戻したい、過去の自分を殴りたい、むしろ記憶を失いたーーーい」
「お、おぉ……まぁ落ち着けよ」
「これが落ち着いてられるか!」
「おら、元気だせー」
うぅぅ、と唸りながら再び机につっぷした俺の頭に手を乗せながら髪を思いっきりぐしゃっと、掻き撫でられる。
そんな健斗の手を払うように勢いよく顔を上げて俺は声を張り上げた。
「でもね、絶対九条くんも俺の事好きだと思うんだ!」
「おっまえ、その自信はどっから出てくるんだ......」
「直感!」
そう、声を張り上げた俺に大袈裟にため息を吐きながら
「あぁ、そうだそうだった。お前ってそう言う奴だった。珍しく落ち込んでるから励ましてやろうと思った俺が、ばーかだった」
「え、あれで励ましているつもりだったことに俺はびっくりなんだけど」
「うっせ……お前さ、前に俺に好かれる昴が可愛そうだって言ったけど、俺はお前に好かれる九条彰の方が可愛そうだと思うわ」
だなんて言ってくるもんだからつい口を尖らせてしまう。
「何だよそれ」
「だってお前絶対諦めるつもりねーんだろ」
「ふふん、当たり前じゃん。もうこうなったら絶対俺のモノにする」
「こーわ。同情するわ。さっきまでの落ち込みはどこいったよ」
「だってやっちゃったことは仕方ないし、もうこうなったら当たって当たって当たりまくるだけだよ!落ち込みタイムはお終い!!」
「お前のそう言う変に思い切り良いところほんと尊敬するわ」
そうやって呆れたように言う健斗に「どうも」と笑って答えればその日一番の大きい溜息を吐かれた。
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