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14.恋する有名人

彰 side 「シンプルに自分がどうしたいか、か……」 普段住んでいるセキュリティがしっかりしている家とはまるで違うセキュリティなんてあってないようなオンボロと言う表現が似合うアパートの一室、変装をといて、何もない畳の部屋の中央に身体を大の字にして倒れ込むように寝転ぶ。 家を出ると決めた時に初めて自分のお金で借りた部屋。 俳優として仕事が軌道に乗った後も、一人になりたい時、考え事をしたい時に訪れる為ずっと借りっぱなしにしている俺の所謂秘密基地的な場所。 そうしてゆっくり呼吸をしながら目を閉じる。 今まで所謂お付き合いをしてきた女性は勿論いる。 好意を寄せられれば特に断る理由も無かったし、良いよと返事をしてきた。 ただ恋人らしいことをできていたかと問われるとできていなかったと思う。 手をつなぐのもデートに誘うのも彼女たちからで、自分から何か行動を起こしたことはなかった。 何でも受動的で受け身な俺は彼氏としてはあまり良い彼氏とは言えなかっただろうな、と当時を思い返して思わず苦笑してしまう。 そんないい加減なお付き合いは長く続くはずも無くて、いつもすぐに彼女から別れを切り出されて終わっていた。 適当な恋愛。 俺にとっての恋愛って言うのはいつだってその程度の物だった。 相手から好意を寄せられてただ受け入れる。 まぁ流石に男の人からってのは初めてだったけれど…… 男の人から好意を寄せられることもあるにはあったけれど特に関係を迫られたり、正面切って告白をされたことはなかった。 だから、びっくりしたんだ。 笹原先生から好きだって言われて。 人からの好意には敏感な方だと思っていたのに全然気づかなかったから…… 驚きはしたけれど、笹原先生からの好意は素直に嬉しかった。 だからと言って、今までみたいにその好意を受け取ることはできなかった。 男同士だからとかそう言うことじゃない。 笹原先生には今までみたいな適当なことはしたくないと思った。 悲しませたくないって、そう思ったんだ。 それは彼が俺にとって神様みたいな、特別な存在だからなのかこの気持ちが何なのか分からない曖昧な状態で付き合っちゃいけないって、傷つけたくないって、そうやって答えを出したのに…… 急にキスとかしてくるんだもんな、あの人。 行動が読めない、し、俺も急な事に驚いて思いっきり頬叩いちゃったし、その後居たたまれなくなってお店飛び出してしまったし……。 『陽仁もお前もごちゃごちゃ考えすぎ』 柊真君の言葉が頭の中をぐるぐる回る。 ごちゃごちゃ、考えすぎているのかな、いや、でも自信がないんだ。 自分の笹原先生に対するこの気持ちが何なのか。 恋、どころか人の感情すら良くわからない自分が自分の感情もきちんと把握できていないような俺がどうしたいか、だなんてそんなの一人でぐるぐる考えたところで答え何て出るはずないじゃないか…… そうやって膝を抱えて身体を丸め込もうとした瞬間、静寂を切り裂くように軽快な音楽が部屋に流れ始めた。 その着信音は今正に、頭に思い浮かべている人物の物で、色々迷った末、意を決して俺は携帯に手を伸ばした。

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