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15.恋する有名人
龍 side
「やぁ、来てくれて良かった」
「何の用ですか」
「こないだの返事を貰おうと思って」
そう、笑顔を保ちながら言ったものの心臓はバクバクしていて後ろに組んだ手からは汗が滲む。
それでも、引き下がりたくない、このまま終わらせたくない一心で俺は九条くんと向き合った。
まさか彼が俺の呼びかけに1回で応じてくれるとも思っていなかったので無駄に緊張してしまう。
いや、嬉しいけどね!
ただ、あんな事した手前、不埒な人間だとか思われてたり警戒されてたりするかもしれないから長期戦の覚悟をしていたのもあって全然心の準備ができていない!
でもこのチャンス逃したくないから思わず飛びついちゃった……けれどうぅぅ、沈黙が重い。
「……返事ならしたじゃないですか」
「何て?俺は九条君に謝られただけだよ」
「っ……!」
俺のその言葉に一瞬、九条君が言葉を詰まらせる。
「俺、は笹原先生のこと神様だとは思ってますけどそういう風にみれ、ません」
「そういう風って?」
「だっ、からその、恋愛対象としては笹原先生のこと見れません!」
「嘘」
そう言って背中を向けた九条君の腕を引き寄せてこちらをむりやり向かせる。
「っ~」
「そんな風に顔を真っ赤にさせといて意識してないとか言われても信じられないよ」
「腕、放してください」
「本気で嫌なら自分で振りほどいてよ、そんなに力いれてないよ、俺」
そう言う俺の言葉にぴくりと肩を揺らす。
そうして観念したのか、小さく吐息を吐き出した。
「……俺、分からないんです。自分の気持ちが、これが、この気持ちが本物かどうか分からないんです。貴方に対するこの気持ちが本当に俺の気持ちかどうか分からないんです!!もし、これがこの気持ちが偽物だったら……もう何が何だか訳がわからない。自分でもはちゃめちゃな事言ってるって分かってるんです。分かってるけどでも……!こわい」
そう言って声だけでなく肩を震わせる俺より少しだけ背の高い九条君の背中に手を回して抱きしめる。
俺のそんな行動に対し彼はただはらはらとその綺麗な瞳から涙を流し続けた。
そんな彼を見て愛おしい、そう確かに思った。
「今はそれでもいいから、少しでも好きだって思う気持ちがあるなら俺はそこにつけ込むよ」
「なん、で俺なんですか。何でそんな必死になるんですか……」
「弟に言われたんだよね、感情ってモノは何で、とか理性とか理屈とかそんなもの意味が無い、無意味なんだって」
「弟さん随分カッコいいこと言いますね」
「俺も思った」
そう言いながらそっと九条君の体を離し彼と向き合う。
「だから、さ。俺と付き合おうよ」
「だからって何ですか。て言うか何だか自信満々で上から目線ですね」
「仕方ないじゃん初めて自分から告白するんだもん」
「いっぱい恋愛小説とかも書いてきたじゃないですか」
「現実と物語じゃ違うよ。用意していた言葉なんて君を前にしたら吹っ飛ぶんだ」
「何なんですか、貴方って人はほんとうに……」
そう言いながら俯く九条君から俺は視線を逸らさないで彼の言葉を待った。
「……こんな俺でいいんですか?」
「そんな君が好きなんだ」
「本当の自分の気持ちも分からない人間なのに?」
「そうやって自分の気持ちがわからないってぐるぐる悩む君ごと愛おしいんだ。君が本物の自分がわからないって言うなら俺が一緒に見つけてあげる。そばにいて何度だってそれが君だよって言ってあげる。君と生きていきたい、そう思ったんだ」
「プロポーズですか……」
「そう取ってもらっても構わないよ」
そう言いながら彼の目の前に手を差し伸べる。
そんな俺の手と顔を交互に見て観念したかのような、呆れたような色んな感情が混ざった微妙な顔をした九条君は
「笹原先生はやっぱりすごいですね……」
そう言って俺が差し出した手をおずおずと握って「よろしくお願いします。」と微笑んだ。
あ、今すごく物語が書きたい。
きっと今なら幸せで、暖かい物語が書ける気がする。
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