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23.恋する後輩
裕 side
「なんで俺を呼んでくれなかったんですか」
愁と付き合うことになってから数日が経った今日。
珍しく奏汰が用事があるから部活を休むと言う連絡を颯希から聞いた俺は「じゃあ今日、久しぶりにカラオケにでも行こう」だなんて誘ったのが数分前。
そうして事のあらましを報告した俺に放った颯希の声音は酷く悔しそうだった。
「いや、呼ぶ余裕もなけりゃ理由も無いだろ」
「そうですけど、そうですけど~!そんな最高に萌えるシチュ見たいに決まってるじゃないですか!!」
「それを言うならお前らのシチュだって俺的にはめちゃくちゃ見たかったからな、むしろお前よりも俺の方が残念度が高いからな」
「残念度って何ですか~。いや、でも本当、愁の粘り勝ちですね、中々、裕先輩落ちないな~って思ってたんですけど、て言うか俺的にはまだ信じられない気持ちもほんのりあると言うか、どの段階で落ちたのか詳しく教えてもらえますかね、裕先輩」
「そのメモ帳と鉛筆しまえ」
前のめりになって聞いてくる颯希に若干引き気味になってしまったが、己の立場に置き換えてみればその反応も当然の物のように思えてとりあえず落ち着かせようと軽く両肩を押して座らせる。
俺達オタクは目の前に広がっている萌えに飛びつかないなんてこと決してできないもんな、お前の気持ちはわかるんだよ、颯希。
「何一人でうんうん頷いているんですか」
心の中で一人、納得をしていれば颯希からじと目で見られたので思わず咳払いをする。
「とにかく、そう言うことだから。詳しいことは黙秘権を行使する」
「お、俺達の事は根掘り葉掘り聞いてきたくせに!!」
「あれは、まぁ腐男子の性だから……」
「俺も同じ腐男子なんですけど!!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
「裕先輩ってそういう所ありますよね」
「そういう所?」
「自分に関する事はのらりくらり交わす所。俺、愁との事もそうですけど、何気にずっと健くんとのことも気になってたりするんですよ」
「あー……まぁほら、前も言ったけど健斗とは昔馴染みなだけだって、兄ちゃんの親友だから知った仲と言うかなんて言うか」
「ふーん」
「あ、何だその顔!信じてないな!」
「ぶっちゃけすごく怪しいと思っています」
「なんでだよ」
「腐男子の勘ですね!」
「いや、無駄に整った顔でキメ顔されても言ってる内容が割かし情けないからな。つっても本当に何にもないんだよな、残念ながら」
「ちぇー」
俺の言葉に口を尖らせる颯希に対し乾いた笑いを零しながらもう一つの用件を思い出す。
「あぁ、後な、」
「?」
「実は雪ちゃんから遊園地のペアチケットを2枚貰ったんだよね」
「遊園地のペアチケット?」
「うん、どうやらこのチケット、雪ちゃんのご両親が商店街の福引で当てたものなんだそうだけどすっかりその存在を忘れたまま時間が過ぎてて、気が付けば期限が今週までだったみたいなんだ、けど雪ちゃんのご家族は用事があって行けないからって貰ったんだ。それで昴にも声をかけてみたけど人混みが苦手だからパス。雪ちゃんもご家族の用事に付き合うから行けないってさ、だから俺と愁、颯希と奏汰の4人で行かないか?」
「それって所謂ダブルデートでは」
「そうなるな」
そう答えた俺の言葉に少し考える素振りをした後、満面の笑みで「行きます!」と言った颯希に「そうこなくっちゃ」と、返した。
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