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24.恋する後輩

 愁也 side 「愁、お前大丈夫か?」 「へ、あ、はい!大丈夫です!!」  燦々と輝く太陽の下、14時から始まるショーの場所取りの為にヒロ先輩と観覧席に座って話をしていたものの、段々と夏の暑さにやられてぼーっとしてしまっていたらしい、いつもより口数が少ない俺を気遣わしげに見てくるヒロ先輩と視線が合う。  そんな先輩に心配をかけまいと勢いよく返事をしたものの、突然大きな声をだしたものだからグワンっと頭に響いてくらっときてしまった。  それを見逃さなかったヒロ先輩は少し眉間にシワを寄せて俺が何か取り繕う前に「ちょっとだけ待ってろ」だなんて言って離れて行ってしまった。  あぁ、呆れられてしまったのかな  それは嫌だなぁ  なんてらしくもなく気持ちが落ち込んでしまう。  仲の良い人達と遊園地に来るの、初めてだったから浮かれて、はしゃいじゃって疲れちゃったんだろうな……  多忙な両親だったけれど、それでも時間を作っては色んな所に連れて行ってくれた。  勿論、遊園地にだって連れてきてもらったことはあった。  でも、友達と呼べる子達とどこかへ遊びに出掛ける何てことは殆どしたことが無かった。  出かけたとしても絶対大人の人が一緒で、まぁ主に高橋だったんだけど、とにかくこうやって自由に行動するなんてこと、中学の頃までは考えられなかったし、しようとも思わなかった。  けれどヒロ先輩と出会って、漫画研究部に入ってもっと色んな事をこの人達としたいって思うようになった。  今回の遊園地行きも先輩と一緒なら何も心配はいらないねって笑って許してくれたお父さんとは違って「不安なのでついて行ってはダメですか?」と、でかける直前までうるさいくらい付きまとってきた高橋を振り切ってやってきたのに結局こうやって暑さにへばって、心配させて、迷惑をかけてしまっている。 「ばーか、お前と楽しむために来たのに一緒じゃないと意味ないだろ、デートなんだから」  ふっ、と、先程ヒロ先輩が言ってくれた言葉が頭に浮かぶ。  嬉しかった。  ヒロ先輩はいつだって俺の言って欲しい言葉をくれる。  出会った頃からずっと……  ヒロ先輩の言葉は魔法の言葉  ヒロ先輩は俺の、魔法使いだ  でもだからこそ何だか今の状況がすごく情けなくて思わずため息を吐きそうになった瞬間 「うひゃっ」  首筋に冷たい何かが触れて驚きの声が出た。 「はは、変な声」  次いで聞こえた楽し気な声に振り返ればおかしそうに笑うヒロ先輩が缶ジュースを両手に持って立っていた。 「ひろ、せんぱい?」 「おー、ほれ、先輩の奢りだ」  そう言って手渡された缶をそのまま素直に受け取った俺にふっと笑って 「夏だしな、流石のお前も疲れたんだろ。冷たいもんでも飲んどけ、好きだろサイダー、いつも飲んでるもんな」  なんて言うものだからじんわりと胸の奥が温かい何かで満たされていく。  俺の事、見てくれてるんだ。  あったかくてこそばゆい気持ち。  ヒロ先輩といるとそんな気持ちが溢れてくる。  多分、幸せって気持ち。  俺ばっかこんな気持ちでいて良いんだろうか。  なんで急に先輩は俺の告白にokしてくれたんだろう。  俺はヒロ先輩に何ができるんだろう、できればヒロ先輩にも俺と一緒にいる時、同じ気持ちになって欲しい。  大好きな人とは幸せな気持ちを共有したい。 「愁、黙りこくってどうした、もしかして結構気分悪かったりするか?」 「せんぱい」 「ん?」  何も言わない俺を心配して声をかけたヒロ先輩の方をじっと見て呼びかけた俺に視線を合わせて優しく言葉の続きを促してくれる。  そんな所も 「すき」  俺の言葉を予想していなかったのだろう、ヒロ先輩が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まる。  そんな顔をさせているのが自分なのだと言う事実に再びじんわりと胸の奥が温かくなる。 「おっ、まえは本当に飽きもせずよく言うな」 「へへ、サイダーありがとうございます」  照れているのか視線を外してそっぽを向いたヒロ先輩にお礼を言って一口、サイダーを口に含む。  瞬間、シュワッと弾けた刺激と、甘ったるい液体で喉が潤う。  そんな俺を横目に、 「それにしてもお前は俺に対して好き好き簡単に言い過ぎじゃね?」  なんて言うものだから 「だって思ってるだけじゃ気持ちは伝わらないんすもん、伝えたいんです、俺の気持ち。いくら伝えても伝えたりないから」  と、素直に思った事を口にすれば相変わらず俺と視線を合わせようとしないヒロ先輩の口から 「俺だってお前のそう言う真っ直ぐなとこ、好きだよ」  なんて言葉が出てきて、それが嬉しくって、気恥ずかしくて俺も思わずヒロ先輩から視線を外してしまう。  なのでその後、ぽそりと呟いたヒロ先輩の声は上手く聞き取れなかった。 「……俺には無いもんだ」 「何か言いましたか?」 「いいや、何にも」

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