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76.恋する幼馴染
奏汰 side
「じゃあ俺達こっちだから」
「うす」
「奏汰先輩、さっちゃん先輩、おやすみなさーい」
「うん、おやすみ、ヒロ先輩もまた月曜日学校で~」
「おー、気を付けて帰れよー」
そんな会話をしていつもの学校帰りと同じ分かれ道でヒロ先輩と愁也に手を振って別れる。
「楽しかったねー」
「おう」
「遊園地行くのも久しぶりだったしね」
「あー確かにな」
「ふふ」
そんな会話をしながらゆったりとした歩幅で歩いていれば、突然颯希が笑いだすもんだから「んだよ」と、疑問を口にすれば
「いや、ジェットコースター乗る前のそうちゃん思い出しちゃって」
だなんて言ってきやがるので思わずその頭を軽く叩く
「いったーい、暴力はんたーい」
「そんな力、入れてねーだろうが」
「ぶー、いや、でも、ふふ」
「まだ笑うか」
「だって、あんなにカッコいい事言ってくれたのに乗る前めちゃくちゃ震えるんだもん、案内役のお姉さんも苦笑いだったし、後ろに並んでいた子供にもめちゃくちゃ心配されてたから」
そんな颯希の脳内にはきっとその時の状況が鮮明に思い浮かんでいるのだろう、笑いを耐えようとして耐え切れず、目の端に涙が溜まっている。
実際、本当に起きた出来事だったので特に言い訳することもできず、と言うか言い訳なんかしたら余計に自分の情けなさを思い出して居た堪れない気持ちになりそうだったのでそのまま何も言わずに颯希に笑われるのを甘んじて受け入れようとしていれば颯希が突然「でも、」だなんて言って立ち止まった。
そんな颯希を不思議に思い振り返れば
「本当に嬉しかったんだよ、ありがとう、そうちゃん」
なんて、月明かりに照らされて綺麗に笑うもんだから、その姿を見て
あーキスしてぇ。
だなんて素直な欲求が心に浮かんだ。
「はぁ!?」
いや、どうやら声に出ていたらしい。
俺のそんな言葉に颯希が一気に顔を赤く染めわなわなと震えだす。
「突然すぎるよそうちゃん!しかもここまだ外だし、ご近所さんに聞かれていたらどうするのさ!」
「いや、思わず思っていたことが声に出ちまったんだって」
そう言いつつも言ったことは本心なので謝るつもりはない。
「思わずって、もー気を付けてよね」
「へいへい」
唇を尖らしてそう言う、颯希の言葉に適当に返事をしてやれば「本当に分かってるのかなー」と、文句を零しつつ再び歩き出すので俺もその後に続く。
そうして他愛もない会話をしていれば家が見えてきて、少しだけ残念な気持ちになる。
お互いの家の前に到着したので、
颯希の方を振り返り「じゃあな」だなんて言おうとした俺の口は颯希の口に塞がれてその言葉は音にならずに口の中で消えた。
突然のことに呆けている俺に構うことなく、顔をまるでトマトみたいに真っ赤に染めた颯希は「おやすみ!!」だなんて、大きな声で叫んでこちらを見ることなく玄関のドアを躓きながら開け、家の中へと消えていった。
それを見送り、バタンッと、ドアが閉まる音で俺はようやく我に返る。
そうして自分の唇を指で触れながら
「ご近所さんに噂されるって言ってたのはどの口だよ」
なんて、言葉が零れ落ちていた。
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