140 / 173

25.恋する後輩

 裕 side 「じゃあ俺達こっちだから」 「うす」 「奏汰先輩、さっちゃん先輩、おやすみなさーい」 「うん、おやすみ、ヒロ先輩もまた月曜日学校で~」 「おー、気を付けて帰れよー」  そんな会話をして奏汰達と別れる。  2人の後姿を見送っていれば同じように見送っていた愁がこちらの方を向く。 「ヒロ先輩、今日はありがとうございました」 「楽しかったか」 「はい、すごく楽しかったです!遊園地行くのも久しぶりだったし、親しい人達と行くのは初めてだったから」  そう、はにかむものだから思わず頭をくしゃりと撫でてしまう。  そんな俺の行動に対し、嬉しそうにする愁にそう言えば……と、以前から気になっていた疑問を口に出した。 「なぁ愁、ずっと聞こうと思ってたんだけど」 「なんですか?」 「お前喋り方変えた?」 「へ」 「いや、変えたっていうよりそっちの方が素か?」 「あ、う、」 「よく考えたらお前育ち良いもんな、見た目は金髪に染めててちゃらちゃらした感じにしてるけど、一つ一つの動作とか、考え方とかから育ちの良さが染み出てるし、最初の頃のあのわざとらしい後輩言葉みたいなすっ、すっ、言葉より今の喋り方の方が楽そうだし」 「え、俺の喋り方変でしたか!?」 「いや、変、ではないけど慣れてなさそうって言うか違和感はあったな、うん」 「うぅぅ……」 「で、何であの喋り方してたんだ?と、言うかそもそもお前のその髪地毛ではないよな、何で染めたんだ?」  そんな俺の質問に視線を右往左往させて、そうして眉を少し下げた表情で 「えっとぉ、その、笑わないでくれますか」  と、言ってきたので思わず 「内容にもよる」  と、返した俺に「ヒロせんぱぁい」だなんて情けない声を出したので「わかった、わかった」と、頭をぽんぽん叩いてやれば、躊躇いつつも愁が口を開き語りだした。 「うぅぅ、えっとですね、その俺と兄さん、九条彰が異母兄弟ってのはヒロ先輩知ってますか?」 「あーなんかどっかで聞いたことある気がする」 「兄さんのお母さんは俺が生まれるよりも前に亡くなっていて、その後父さんは俺のお母さんと再婚して俺が生まれたんですけど、兄さんのお母さんってアメリカの人だったんです。だから兄さんはハーフで、あの綺麗な金髪も地毛なんですけど、俺はと言うと、俺のお母さんは日本人で地毛もまぁ当然黒で、しかも兄さんは父さん似なんですけど俺は母さん似で兄弟なのにあまり似てなくて、周りの人にも色々言われていて、あ、直接何か言われたとかではないんですけど、耳に入ってきちゃうって言うか、とにかくそう言うこともあって、兄さんは俺に対して少し遠慮があるっていうか、大切に思ってくれているとは思うんです、今でも俺から誘えば一緒に食事に行ってくれたり、会ってくれはするし、だからその仲が悪いとかではないんですけど、それでも特別仲が良いってわけでもなくて、それが少し寂しくて、だから俺、兄さんと同じが欲しくて、でも俺じゃ何も思いつかなくて、そんな時、中学の頃よくしてくれた先輩、あ、あの入学式で絡んできた人達なんですけど、えっとその先輩たちがなら髪を兄さんみたいな金髪に染めればいいんだって言ってくれて、それで先輩達の卒業式の後、染めて貰ったんです」 「へぇ……って、金髪にした経緯は分かったけど、肝心の喋り方について話してなくね」 「あははー、誤魔化されてくれませんか」 「ここまで話したんだ。正直に全部話せよ」 「うぅぅ、その、喋り方はまぁ、なんて言うかえっと、高校デビューですね!はい!!」 「高校デビュー?」  思いもよらない言葉に思わず聞き返してしまった俺に気まずげに小さく愁が頷く。 「えっと、折角金髪に染めて貰ったし、どうせなら高校ではこの格好に見合うような喋り方をしてみようって色々模索した結果と言いますか……」 「単純」 「うっ、ですよね」  俺の言葉にへらりと愁が笑うので 「まぁでも良いんじゃないの」 「あはは、結局最初の数か月しかもちませんでしたけどね」 「それが素だってんなら無理に喋り方を見た目に合わせる必要もないだろ、どんな喋り方でもお前の本質は変わんねぇんだし」 「ヒロ先輩……かっこいい」 「惚れ直したか?」 「いつだってメロメロですよ」 「ふはっ、メロメロって」 「だって俺、ヒロ先輩に出会った頃からぞっこんラブですもん」 「時々変な言葉のチョイスするよな、愁は」 「兄さんの出ているドラマの影響ですかね」 「お前の兄ちゃん一体どんなドラマに出てんだよ……」 「おかげさまで大活躍なのでいろんなジャンルに引っ張りだこです!」  そう、誇らし気に言う愁の顔はキラキラと輝いていて本当に兄のことが好きなんだって事が伝わってきて微笑ましい気持ちと同時にほんの少し嫉妬に似た感情が浮かんで、自分で自分に呆れてしまう。  そんな俺の様子に気づくことなく愁は話を続ける。 「まぁだから鷹先輩達とは高校であんな形の再会になっちゃいましたけど、それでもやっぱり俺あの人たちには感謝しているんです。中学生の時、遠巻きにされていた俺に声をかけてくれたこと、俺の悩みをガキっぽいだなんて笑わずに真剣に聞いて一緒に考えてくれたこと」 「愁……」 「それに鷹先輩たちが入学式の時絡んできてくれたおかげでヒロ先輩に会えましたから!プラマイゼロです!!」 「なんだそれ」  そうやって力説する愁の姿に思わず吹き出してしまって、そんな俺を見て愁もへへへと照れたような笑いを浮かべた。

ともだちにシェアしよう!