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14.恋するアイドル

 柊真 side 「……はぁ~」  画面に表示されている短い文章を睨みつけながら思わず漏れたため息。  送信者は夏凪さん、内容は朝、俺が頼んだこと。  《陽仁くん、確かに何か悩んでるようですね。けれど柊真くんの事では無いみたいですよ。これ以上は本人に直接聞いてください。》  聞けないから夏凪さんに頼んだんだっつの…… 「陽仁、全然帰ってこねぇし……」  時計を見れば既に23時。  朝、陽仁とは起きている時間に会えないだろうと思っていたが夏凪さんに確認をしてみればドラマの撮影は20時に終わる予定だと聞いてそれならばと思い、リビングで待つこと3時間。  本当は明日は早朝の撮影が入っているので早めに寝るつもりだったもののこうなりゃ意地だと今もまだ帰って来ない陽仁を待ち続けている。  念の為、メッセージが入っていないか確認をしてみるものの陽仁からは特に何も来ていない。  そうやってモンモンと考え込んでいた俺はどうやら玄関の扉が開く音が耳に入ってこなかったようで 「あれ、柊真だ」  なんて、久しぶりに聞いた陽仁の声に思わず肩が跳ねたついでに声も変に裏返った。 「お、ぅ、おかえり」 「ただいま~」  俺のそんな様子を特に気にすることなくそう、挨拶してきた陽仁は普段通りで、気まずく感じていたのは俺だけだったんだなとか、じゃあ今朝の涙の後の理由はなんだよとか色々思うことはあったもののそれよりも 「何か良い事でもあったのか?」  陽仁の様子があまりにも楽しそう、いや嬉しそうで思わずそう、尋ねていた。 「あ、わかる?ちょっと撮影が終わった後に共演者の鈴城くんとCaféに行ったんだけどそこの珈琲がすごく美味しくて話も盛り上がっちゃってさ」 「ふーん、だからこんな遅かったのか」 「そー、それにお店がちょっと駅から離れた場所だったから帰ってくるのも時間かかっちゃった。あ、それでね本当にお店の珈琲がすごく美味しくて買ってきたんだけど柊真飲む?って、こんな時間だしいらないよね」 「そうだな朝、貰うわ」 「うん、飲んで飲んで~。じゃあ僕ちょっとシャワー浴びてくるね、柊真確か明日早朝から撮影でしょ?早く寝なよね、おやすみ」 「おーもう寝るわ、おやすみ」  そんな会話をしてパタパタと風呂場へ向かう陽仁の背中に視線をやりながら俺の頭に浮かんだのは  あ、はる何か隠してんな  と、言う考えだった。  けれどきっと今追求してものらりくらりと交わされるだろう事が分かっていたので俺はあえて何も気づかなかったフリをした。  まぁ、変に距離取られたりしてないし良いだろ。  そう、思っていたんだ、この時は  ■□■ 「陽仁、明日って……」 「あ、柊真ごめんね、明日は予定があるんだ」  あれから数週間、休みが合う日に2人で出かけようと誘いをかけようと話しかけても尽く予定があると断られる。  けれど決して避けられているわけでは無い。  ……と、思う。  と、思う。だなんて弱気になってしまうのは今までの告白や、やり取りが無かったことにされてるのかと言うほど、あの日以降そういった事をしていないし、そういう雰囲気になる事が全くと言って良いほど無いからだ。  けれど意図して陽仁がそう言った雰囲気を回避していると言う訳では無く、ただ単純に2人で過ごす時間が減ったと言うのが原因なのだろうと俺は考える。  今まで休みが合えば大体2人で過ごしていた。  どちらか一方が休みの時だってそんなに頻繁に出かけるようなことは無かった。  陽仁は人懐っこく思われることが多いが割とドライで基本、仕事関係の人間は仕事の付き合いだと割り切っている。  偶に撮影終わりに食事に行ったり、本当に極極稀に一緒に出かけたりするがそれでもそういう時は俺に誰と一緒に出かけると報告してきていた。  それなのに最近出かける時は相手が誰なのかハッキリと言わず濁らせる事が多い。  それに、出かけるときは決まってソワソワしているし、前は俺の前で気にせずメッセージを確認していたのに最近は隠れるように急に席を立つようになった。  これはつまり……  女か!?  好きな奴ができたのか!?  だなんて考えてみたがそれは有り得ないって即座に脳内で否決される。  そもそも好きな奴や恋人ができたなら俺の告白に対してそうハッキリ告げるだろう。  むしろ俺を諦めさせるには絶好の言葉だ。  まぁ、もしそう言われても俺は諦める気はねぇけど  ……違う、そうじゃない。  そうじゃないだろ俺!

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