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15.恋するアイドル

 柊真 side 「そんなに気になるなら直接聞けばいいじゃないですか」 「はぐらかされんだって何回も言ってんじゃん!」 「柊真くん、すぐはぐらかされますもんね」 「うっ」  夏凪さんのぐうの音も出ずに机に突っ伏す。  最近の陽仁の様子を説明しながら夏凪さんにアドバイスを求めたのがそもそもの間違いだったのかもしれない、そう思っていた事が伝わったのかふぅ、だなんてこれみよがしにため息を吐かれる。  そ、そんなあからさまめんどくせぇみたいな態度取るなよな!  何てこと、心の中で思うだけで実際に口に出して言えないのは今までの付き合いでその後の反応がどう返ってくるのか容易に想像できてしまうからだ。  これ以上傷を広げたくねぇ……  そんな事を考えながら「うぅぅぅ」と、小さく唸っていれば「止めてくださいよ、人気アイドルが机に突っ伏して唸っている姿なんて画になりませんよ」なんて追撃が来た。 「夏凪さん、俺の喋り方が乱暴だっつうけど、丁寧に喋ってれば何でも優しく聞こえるわけじゃねぇんだぞ、むしろそっちの方が心にくる時もあんだぞ」 「知ってますよ」 「そんな真顔で肯定すんなよな……」  顔だけ起こし、じとーっとした目で睨んでみたが夏凪さんには特に効果は無いようで素知らぬ顔で書類整理を続けている。  けれど俺がなかなか視線を逸らさないことに対し、めんどくさくなったのか投げやりと言った感じで口を開いた。 「もうそれなら陽仁くんのこと、尾行なりなんなりすればどうですか」  尾行…… 「まぁ冗談ですけど、って柊真くん聞いてます?」  なんて言った夏凪さんの言葉は聞こえていたが俺の脳内には届いてこなかった。  そうだな、よし、尾行すればいいんじゃん!  そうなれば善は急げだよな!! 「ありがとう夏凪さん!」  そう、夏凪さんへ言葉を放って勢いよく立ち上がる。 「えぇ、素直にお礼を言う柊真くん怖い……問題だけは起こさないでくださいよ……」 「大丈夫だって、俺がそんなヘマ起こしたこと無いだろ」 「いや、もう既にその言葉に不安がいっぱいなんですが……」  ■□■  なんてやり取りをしたのがつい昨日のこと。  今日も今日とて用事があると言って出かけたり陽仁の後をつけて行った俺の視線の先に映ったのは和気あいあいと話す陽仁と知らない男の姿だった。  誰だあの男  陽仁が向かった先は以前、珈琲が美味しいと言っていた喫茶店だった。  店内に入ってぐるりと見渡し、目当ての人物を見かけたのか店員に声を掛けそちらに小走りで近づいていく。  その時の顔が本当に嬉しそうな、幼い子供の頃のような無邪気な笑顔でチクリと胸を刺すような痛みが走った。  なんか、ムカつく……  あんな純粋な笑顔ここ暫く俺だって見ていないのに  そんな考えが浮かんだ瞬間、溢れてくる熱を零さないようぐっと眉間に力を入れる。  俺が好きだって伝えて宙ぶらりんな関係が始まったあの日から、もうずっと陽仁のあんな幸せそうな、心の底から溢れるような笑顔を見ていない。  俺に向けられる笑顔は仕方がないなぁだなんて小さな子供を諭すようなそんな少し眉を下げて笑うそんな笑顔ばかりだったから、それ以外は仕事モードのアイドルとしての春日野陽仁の笑顔しか見ていなかったから。  だから見知らぬ男に見せた陽仁の表情にガツンと、頭を殴られたような衝撃を受けたんだ。  そうして、暫く放心したように2人のやり取りを眺めていた俺だったが、男の手が陽仁に伸びるのを見た瞬間、俺の中で限界が来た。 「何してんだよ」  思わず俺は陽仁達の方へ駆け寄っていた。

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