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16.恋するアイドル
陽仁 side
「誘っておいてあれだけど、時間は大丈夫?無理してないかい」
そうやって気遣わし気にこちらを見るその態度に自然と頬が緩んで心がぽかぽかと温かくなって声音も弾む。
「全然平気だよ、僕が会いたくて来てるんだし」
そう、答えた僕に「それなら良いんだけど」と、眉を下げたまま小さく微笑んだ目の前の人物の顔は僕がよく、困った時柊真に向けてする表情に似ていて何でもない事なのに嬉しくなって心臓が駆け足になった。
目の前の人物との交流が始まって数週間、未だ父親だという実感はあまり無いのだけれど、それでもさっきの表情みたいに自分との共通点を見つける度に嬉しいような気恥しいようなそんな感情が交互に湧きあがる。
柊真や菖吾さんにこの出来事をきちんと話さなくてはいけないと言う気持ちも無いわけでは無いのだけれどそれでも中々話すことができず密会を続けてしまっているのは2人に対する罪悪感といけないことをしているという後ろめたさがあるからだろう。
絶対2人に言ったら怒られるもんな……
怪しい人物の誘いにホイホイ乗るなって
いや、でも菖吾さんは案外良い歳した大人ですからご自由にとか言ってくれたり……しないかな言ってくれたとしても危機管理ができていないって呆れられそうではあるな。
柊真は……うん、絶対確実に怒るな、僕に対して過保護通り越して過干渉な時あるくらいだもんね。
まぁそれを嫌だなんて思っていない僕も僕で世間的に見れば変な部類になるんだろうけれど……
柊真だけでもきちんと伝えた方が良いんだろうけど、分かっているんだけど何て伝えれば良いのか分からないってのもある、よね。
だって突然来たDMに書かれていた場所に行ったら父親らしき人物がいて、自分でも知らない、けれど確実に自分と血を分けているであろう証拠があって色々話が聞きたくて興味を持ってしまってこの数週間密会してました~……なんて意味が分からなさすぎだろ、もし自分が言われても処理できないよ。
でもそろそろ色々怪しまれているというか、疑ってかかられているというか……僕らの間で隠し事が成立できるわけがなかったんだよね、だから多分バレるのも時間の問題だろうしそれならやっぱり自分の口からきちんと説明していた方が良いんだろうな……
そんな風に考え事をしていたら「ふふ」だなんて控えめな笑い声が目の前から聞こえて思わずそちらに視線を向ける。
「あぁ、ごめんね、何だかぐるぐる考え込んでる表情があまりにも君のお母さんに似ていたから」
そう言いながら頭を撫でようと持ち上げられたその腕は僕の所に届くことは無く、その代わりに頭上から
「何してんだよ」
「へ」
だなんて、本来ここにいるはずのない、けれど先ほどまで自分の頭の中に浮かんでいた人物の声が耳に飛び込んできて思わず間抜けな声が漏れた。
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