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18.恋するアイドル

 陽仁 side 「すみませんでした」  あれから流石に騒ぎすぎたというか、柊真の叫び声に店員さんが何かあったのかと、慌ててやってきて即座に店内で騒がしくしてしまったことを謝罪し、何もないと言う事を伝えれば「何事も無いなら良かったです」だなんて言って業務に戻って言った店員さんの後姿を見送りながら  大学生くらいかな、優しい子だな。  大学生だったらさっくんやアレクと歳近そうだな、2人は今頃何してるんだろうな  最近本当にインする時間が合わないせいで2人と話せてないな  テストも終わっただろうしそろそろ1回集まって久しぶりに一緒に狩りに出かけたいな  3人で誰が一番早くダンジョンを攻略できるかとか競い合うのも楽しそうだなぁ  だなんて、現実逃避をするかの如く関係のないことをだらだら頭の中で考えていた最中に柊真が潔く桔平さんに対し謝罪の言葉を口に出した。 「あはは、まぁ確かに知らない人物とコソコソ会っていたら警戒してしまうよね、柊真くんは陽仁くんの事が心配だったんだよね」 「う、はい……陽仁もごめん、勝手につけたりして」 「僕の方こそ隠し事しててごめん」 「ん」  しおらしい態度をする柊真に桔平さんと会うことになった経緯を話して聞かせる。  途中で「いや、行くなよ」だとか「まず相談しろよ」とか、色々ツッコミをいれられたがそれは全部無視してとりあえず話し切った。  僕の話が終わったことが分かった柊真からの呆れた視線が突き刺さるが僕も柊真もそれ以上何かを言うことは無かった。  そんな沈黙を破ったのはまたしても桔平さんだった。 「まぁ、そう言う事なんだけどね、けどもう陽仁くんと会うのはこれで最後にするよ」 「え」  突然の思ってもいなかった桔平さんの言葉に思わず戸惑いの声が漏れる。  そんな僕に対し困ったように眉を下げて小さく微笑みを浮かべながら桔平さんが言葉を続ける。 「本当はね一度会うだけで良かった、でも欲が出ちゃったんだ。それで何度も君のお母さんの話をタネに約束を取り付けてしまった。けれど柊真くんに心配をかけたように周りの人に心配をかけることになる。それにこんな所を週刊誌にとられたら色々な人に迷惑がかかることになるだろ」  その言葉に何も言えず押し黙ってしまった僕に 「陽仁」  だなんて、初めて敬称をつけずに名前を呼ばれる。 「応援しているよ、ずっと。テレビ越しだけれど君の活躍をずっと見ている。君と話せてよかった」  そう言って柔らかく笑った桔平さんの顔は初めて会った時と同じ表情で温かい気持ちでいっぱいになるはずなのに何だか少し悲しくなったんだ。

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