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19.恋するアイドル

 陽仁 side 「……ふぅ」  暗くなった画面を覗き込んで何度目か分からないため息を吐く。  幸い、周りに人の気配はないのでそんな僕の様子を突っ込んでくる人間もおらず、僕のため息は止まることなく数分おきに口から漏れ出るのであった。  ……あれから桔平さんとは一切の連絡が取れなくなった。  DMを送ってきたSNSのアカウントも消されており、唯一の連絡手段を絶たれてしまえば自分の方から桔平さんへと連絡する術なんて無くて、もしあったとしても最後の時に言われた言葉が胸の中に突き刺さってきっと動けなくなっていたんだろうな、何てことが容易に想像でき、ため息の代わりに苦笑いが零れた。  そしてもう一つ、あの一件から今までギリギリ保っていた柊真との関係が完全にぎこちないものになってしまい、お互いギクシャクしている。  あの時は桔平さんの仲裁でお互い謝罪をしたものの、2人になった瞬間微妙な空気が流れ、会話をしようにも何を話していいのか分からない状態の中、柊真の携帯から突然鳴り響いた着信音は急な仕事の件でそこから別れた後、数日スケジュールの都合で再びすれ違いの生活が続いている。  こんなに長期間冷戦状態になるのも初めてだからどうして良いか分からないんだよな  いつも喧嘩をした後はなぁなぁで流れて終わるか、柊真から謝ってくるかだったから……うん、僕って大分柊真の好意に甘やかされてたんだな  思わぬ所でダメージを受け、つい反省してしまうがそれでもどうすれば良いのか具体的な案は浮かばない。  その場限りの謝罪なんて意味無いもんね……  そもそもの原因が自分にあるのは十分すぎるくらい理解している。  ここまで柊真との関係がこじれてしまっているのは僕が柊真の気持ちをきちんと受け入れていないからだって、そのくせ手放せなくて繋ぎとめて宙ぶらりんの関係を保ち続けてきたツケがとうとう回ってきたんだって気がついている。 「……柊真とちゃんと話し合わなきゃ、だよね」  自分がどうしたいのかはハッキリとしているのにその為にどうすれば良いのかは分らない。  明確な関係を持つのが怖くて曖昧な関係を望んでそうして今までずっと逃げてきた。  ずっと目を逸らして背を向け続けてきた僕の側を柊真はずっと離れず居てくれたんだ。  正直、話し合うにしてもこのままだとまた平行線を保つ気もするけれどそれでもこのまま何もしないでこの状態が続く方がキツいもんね……  まだ僕の中で考えが固まっていないけれどそれでも何もしないよりはマシ、か  再び出そうになった僕のため息を遮ったのは机の上に置いていた携帯の着信音だった。 「もしもし」 『夏凪です』 「菖吾さん?どうかしましたか、今日って何か仕事ありましたっけ」 『あぁ、いえ、仕事では無いんですが』  電話越しで歯切れ悪く答える菖吾さんに対し珍しい事もあるんだななんて思いつつ言葉の続きを待つ。  時間にして数秒も満たないものだったけれど何故だか酷くその沈黙は長く感じた。 『……陽仁くん、今家にいますか?』 「え、うん」 『そうですか……あの、落ち着いて聞いてくださいね』  そう言った菖吾さんの声音は珍しく緊張の色を含んでいて思わずこちらもごくりと唾を飲み込む。  そうして告げられた内容を聞き、耳に当てていた携帯が大きな音を立てて床に叩きつけられた。

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