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20.恋するアイドル

   陽仁side 「……大体の事情は理解しました」  あの後、菖吾さんから電話がかかってきた後、僕は驚いて跳ね上がった心拍数を落ち着けるよう深く深呼吸をしてすぐに事務所へと向かった。  そうして既にその場にいた柊真と一緒に菖吾さんに促されるまま会議室へと入り、菖吾さんが話を切り出そうとしたのを遮って、父親と名乗る人物からSNSを通じて連絡を取ったこと、その人物と何度か直接会っていたことを話したのだ。 「まず陽仁くん、どうして何も相談してくれなかったんですか。あぁいえ、分かっています。きっと僕や柊真くんに話せば止められると思ったんでしょうね。それでも君が取った行動は大変危険な事だったという事は理解していますか?相手が悪意ある人間でなかったから良かったものの一歩間違えれば君や周りの人間にも危害を加えられていたかもしれないんですよ」 「はい、ごめんなさい……」  項垂れてそう言った僕に対して小さくため息を吐いて今度は僕の隣に座っている柊真の方へ視線を向ける。 「柊真くんも、陽仁くんの事になると我慢できず突っ走るのは悪い癖です。まぁ僕の冗談が招いた結果ではありますがそれでも相方を尾行するって……今時そんな人間滅多にいませんよ。しかも乱入とか……トラブルにならなかったから良かったもののそんなところを記者にでもすっぱ抜かれたら面白おかしく書かれるのがオチですよ」 「返す言葉もないです」  僕と同じように項垂れた柊真に対しても先ほどより深くため息を吐き菖吾さんが口を開く。 「とにかく、これからはきちんと何かあれば直ぐに言ってくださいね。事務所は……僕はどんなことがあっても2人の味方です、これは君達がアイドルとしてデビューすると言ってくれた日にも言いましたが君達に何かあっても全力で守ります。君達の事を案じて色々と言ってしまったり、行動を制限してしまうこともありますが本気で考えてした行動ならどんなことであろうと応援します。だからお願いですから無茶や危険な行動を一人で抱え込んでしないでください」 「「夏凪/菖吾さん……本当にごめんなさい」」  普段あまり変わることのない菖吾さんの悲し気な表情と声音に酷く心配をかけて傷つけてしまったという事が理解できて僕も柊真も心の底からの謝罪が口をついて出ていた。  そんな僕らの様子にふっと笑って菖吾さんの纏う雰囲気が和らぐ。 「君達の事を心配して気にかけている人間がいる、と言うことをどうか忘れないでください。勿論、君達がこの事務所に所属するアイドルだからと言うこともありますが決してそれだけではないんですよ」 「「はい」」 「分かってくれたなら何よりです……それにしても陽仁くんの話通りならその父親と名乗る人物はもう二度と君達には接触しないと言ってきたんですよね」 「はい、だから菖吾さんから電話で聞いた内容に驚いたんです」 「確かに陽仁くんからの話を聞く限りだと自分で言った言葉を翻すような人物には思えませんね」 「でも連絡が来たんだろ?陽仁に会わせろって」  その柊真の言葉に眉を下げて戸惑いがちに菖吾さんが頷いた。  そう、菖吾さんから電話越しに聞いたのは事務所あてに僕の父親と名乗る人物から連絡が入ったという事だったのだ。 「どうしますか、陽仁くん」 「え」 「事務所としては素性の分からない相手に君を会わせたくないというのが本音です。ですが、」 「……会う」 「陽仁!?」 「連絡があったって言っても電話で父親だって言ってるだけなんですよね」 「ええ、自分は春日野陽仁の父親だ、会って話がしたいと言ってました」 「その人が桔平さんでも、違う人だったとしても一度直接会って話がしたい、です」  そう、言い切れば隣で何か言いたげな顔をした柊真からの視線を感じたがそちらには視線を向けず真っすぐ菖吾さんの方へと視線を向ける。 「陽仁くんの意思を僕は尊重しますよ」 「ありがとうございます、菖吾さん」 「それに、こっそり会われるより、きちんと目の届く範囲で接触してくれた方が僕としても安心ですからね」  そう、小さく笑って言った菖吾さんに再度お礼と謝罪が僕の口からは零れた。

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