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21.恋するアイドル

 陽仁 side 「大丈夫か?」  そう、柊真が心配そうに僕の顔を覗き込む。  そんな柊真に対して力なく笑みを浮かべながら 「ちょっと緊張してるけど大丈夫、柊真も菖吾さんも一緒にいてくれるから」  と、言えば「そうか」だなんて言って会話が途切れ、部屋の中に再び沈黙がやってくる。  沈黙が続くと色々考えちゃうな……  部屋には今、僕と柊真の2人だけ  菖吾さんは父親と名乗る人物を迎えに行っている。  頭の中に浮かぶのは最後に会った桔平さんの言葉と表情。 『応援しているよ、ずっと。テレビ越しだけれど君の活躍をずっと見ている。君と話せてよかった』  そんな事を言ってくれた人が果たして再び会いに来るのだろうか?  そもそも事務所を通して連絡してくるなら最初からそうするのではないだろうか?  だとしたら今、菖吾さんが迎えに行っている父親と名乗る人物は果たして誰なのか?  いくら考えたって答えは出ないし、どんどん色々な疑問が浮かんでは消えていく。  そんな風に思考が深く沈みそうになった瞬間、部屋に響いたノックの音が静寂を打ち破った。 「こちらです」  聞こえた菖吾さんの声に導かれるように開いた扉の方へ視線を向ける。  そうして菖吾さんに促されるまま部屋に入ってきた人物は桔平さん……ではなく、見覚えのない男性だった。  ■□■ 「それで、あんたが陽仁の父親だって言う証拠はあんのかよ」  自分の名前を春日野瑛翔(かすがのえいと)と名乗った人物に対し、柊真が敵対心をむき出しに問いかけた。 「柊真くん」 「あるんですか」  即座に菖吾さんが鋭く名前を呼んだものだから直ぐに言い直したものの、そんな柊真に対し、「そうだけど、そういう事じゃない」だなんて小さく頭を抱えた菖吾さんと怪訝そうな柊真を見て苦笑しながら目の前の人物が1枚の写真を取り出し、机の上に置いた。 「これは陽仁が生まれた時に撮った写真です。この写真を撮った数日後、妻の容体が急変して、結局これが最初で最後の家族写真になってしまいましたが」  その写真の中にはベッドに横たわり、生まれたばかりの赤ん坊のほっぺを愛おしそうに撫でる女の人と、その赤ん坊を抱きかかえている男の人が映っていた。  その男の人と目の前の人物を見比べてみれば確かに、多少歳は重ねているけれど同一人物だとハッキリ断定できる。  その事実を認めた瞬間、目の前の人物が本物の父親なのだという事を実感し  何も言葉を発せなくなった僕に代わって柊真がいろいろと質問を投げかける。  その質問一つ一つに丁寧に返ってくる返答を聞いて僕の頭の中は余計にこんがらがってしまう。  曰く、身体の弱かったお母さんは出産後暫くは元気そうにしていたが容体が急変し、亡くなってしまったこと。妻を亡くしたショックで自暴自棄になり生まれたばかりの子供をみるのも辛く耐え切れず、自分勝手だとは思ったが施設の前へ捨てるように置き去りにしてしまったとのこと。  その内容は桔平さんから聞いていた内容とほぼ同じでますます混乱してしまう。 「最後に、何で急に陽仁に会いに来た」 「自分の息子に会いたいと思うのは当然の気持ちです」 「今まで連絡一つ寄こさなかったのに?」 「タイミングがなかなかなくて」  繰り広げられる会話は僕が中心の話なはずなのに何故だか気持ちが追い付かない。  僕の頭を占めるのは目の前の本物の父親だと名乗る人物ではなく、桔平さんの事で  じゃああの人は、桔平さんは誰なんだ……?  そんな事、目の前の人物に聞けるはずもなく、その日はとりあえず帰ってもらい、後日また会うことになった。

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