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22.恋するアイドル

 陽仁 side  本物の父親だと名乗る人物が事務所に訪ねてきて1週間後、再び話し合いの席が設けられた。  前回と同様に僕、柊真、菖吾さんそして僕の父親だという春日野瑛翔の4人で3対1、向かい合うように席に座る。  前回と違うのは菖吾さんに釘を刺された柊真が静かに席に座って目の前の人物に鋭い視線を浴びせていること、菖吾さん主体で話が進んでいくこと、だ。  そうしていくつか話をするうちに以前、はぐらかされた何故急に今になって父親だと名乗りをあげたのか、何が目的なのかと言う問いを投げかけた。  その問いに、最初は前回と同じように言葉を濁していたが、ぽつりぽつりと観念して話し出した内容はこうだ、数年前から身体を壊し、まともに働けずお金もない、頼れる身内もいなく、そんな時テレビに映る僕の姿に死んだ妻の面影を見た。  そうして情報を追いかけていくうちに自分の息子なのではと言う疑念が生まれ出身である施設の名前を調べ上げて疑念が確信に変わった。  自分の息子なのだと確信した瞬間、突発的に会いに来てしまった。  父親として情けない話ではあるが、生活支援をして欲しいというような申し出だった。  その内容に柊真は激怒し、菖吾さんも顔には出していなかったけれど嫌悪感を抱いたようだった。  結局その場ですぐに答えることはせず後日、事務所の人間のみと話し合いの場を設け、穏便に申し出に対するお断りを告げて貰った。  その話し合いに当本人である僕は参加しなくても良いのかと菖吾さんに尋ねれば僕がいた方が事態がややこしくなる可能性があるからと言うことなので素直に聞き入れた。 「何か色々あったな」 「……うん」  それから更に数日、久しぶりに2人での仕事が入り、現場へ向かう為菖吾さんの車を待っている間に言われた柊真のその言葉に返す自分の返事が思いの外、弱弱しくて大分参っているのかなだなんて考えが浮かんで小さく笑ってしまう。 「陽仁」 「何?」  名前を呼ばれて柊真の方へ視線を向ければ小さく眉間にシワを寄せた柊真と視線が絡む。  柊真から発せられる言葉を 「いや、何でもねぇ」 「うん」 「俺ちょっと飲み物買ってくるわ。陽仁はどうする」 「僕はいいかな」 「そ、じゃあちょっと行ってくるわ」 「菖吾さんそろそろ着くと思うから早くね~」 「はいはい」  そう、返事をした柊真の背中を見送りながら考えるのはここ最近の出来事で  どうしたって桔平さんの事をぐるぐる考えてしまう。  本物の父親じゃないとしたら、どうしてそんな風に装って僕にわざわざ会いに来たんだろう。  あの時、桔平さんから向けられたモノは親が子供に向ける愛情だって、そう感じてだからこそくすぐったくて暖かいだなんて思ったのにそれは勘違いだったのかな。  だとしたら桔平さんの目的って一体何だったんだろうか……  実の父親みたいに金の無心で無かったとしら何の目的があって僕に会いに来たの?  そうやって考え込んでいれば近づいてきた足音に思考が浮上する。  柊真が帰ってきたのだろうと、思いながら視線を上げた先にいたのは柊真ではなかった。

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