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24.恋するアイドル
柊真side
「陽仁」
「あ、柊真、おはよう」
「はよ、もう出るのか?」
「うん、菖吾さんがもう下まで迎えに来てくれたみたいだから」
「帰りは夏凪さんの代わりに俺が迎えに行くから絶対一人で帰るんじゃねぇぞ」
「あはは、うん。ありがと」
「おー」
「……とうま」
「ん?」
「ごめんね」
「はる……」
「じゃあ行ってきます!」
俺が何か言葉を投げるよりも先にそう勢いよく告げた陽仁の背中を見送り、小さなため息が漏れる。
「ごめん、なんて言うなよな」
あの騒動以来、陽仁気分が沈んでいる。
本物の父親についても事務所が上手い事対応、処理を行ったらしい、という事は夏凪さんから聞かされた。
詳しい内容は教えられなかったし、俺も陽仁も聞きたいとは思わなかった。
それでこの件は一件落着した、はずだった。
そう、一応の決着はついたんだ。
でも、まだ謎は残っていて、陽仁の元気が無い原因も分かっている。
偽の父親の事。
偽の父親を名乗った人物、花染桔平(はなぞの きっぺい)。
結局その人物について父親に尋ねることはできなかった。
だからこそ、陽仁の心に深く刻みつけられ、未だにその人物の目的や正体に心が奪われている。
俺としてはその現状が面白くないわけで、気落ちしている陽仁の為にも何とかしてやりたい気持ちでいっぱいなのだが、あまりにも情報が少なすぎる。
「探すにしたって全く何の手がかりもねぇもんなぁ」
そんな言葉と一緒に再びため息が零れ落ちた。
何か最近ため息吐く回数増えてないか?
あー、ダメだ、ダメだ。
陽仁が暗いのに俺まで落ち込んだら家の中が更にジメジメしちまう。
「気分転換に買い物にでも行くか」
そう、言葉にして外出の準備をする為自室へと向かう。
朝から夕方にかけて仕事が入っている陽仁と違って俺の今日の仕事は夕方から雑誌のインタビューがあるだけ、夕方陽仁をスタジオまで迎えに行って一度帰宅し、そのまま記者の人と待ち合わせをしている現場に向かう予定だ。
なので、今から夕方まで大分時間が空いている。
夕食、陽仁の好きなモン作って、前食べたいって言ってたケーキ屋のケーキも買ってきて冷蔵庫に入れておこう。
美味いモン食ったら少しは気分も上がるだろ。
励ましの言葉だけならいくらでもかけられる。
けれどそれを受け取る、受け取らないは陽仁次第で、どんな言葉が今の陽仁への正解になるのか正直今回は初めてのパターンなので分からない。
だからこそ自分にできることは全部やる。
それで陽仁が少しでも元気になるなら言葉も、行動も惜しみなく全部与える。
俺にはそれしかできないから。
そう思って少し足を伸ばして街へ出かけたのが数時間前。
粗方買い物を終え、後はケーキ屋へ寄るだけだった俺の視界に入り込んできた人物の影に思わず足を止めた。
「あれって」
見間違いかもしれない。
なんせ会ったのはあの1回きり。
けれど直感で確実にあの人だと分かった。
そう、考えた瞬間、俺の足はその人物の方向へ走り出していた。
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