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25.恋するアイドル
柊真 side
「あークソっ、見失った」
突然走って立ち止まったせいか呼吸が乱れて思わず、肩で息をしながら周辺を見渡す。
しかし先ほど見かけた人物が視界に映ることは無く、深いため息が己の口から零れ落ちた。
まぁ、一瞬だったし、見間違いか……
それか俺の願望が見せた幻覚だったり……ってあーらしくないこと考えてんな、ゲーム脳なのは陽仁だけで良いっつーの。
そう、ごちゃごちゃ考え出した脳内をリセットするように左右に大きく頭を振り、元来た道を戻ろうと振り返った俺の耳と視界に飛び込んできたのは
「え」
驚いた顔をした俺が探していた人物。
花染桔平、その人だった。
■□■
「……」
「……」
静寂の中、店内に響き渡るのはスピーカーから流れてくるクラッシックと店員の作業の音のみ。
俺たち以外に客はおらず、この沈黙が破られることは無い。
席に案内された時に頼み、運ばれてきた目の前の珈琲はもうとっくに冷めてしまっているのか湯気が出てくる気配もない。
もし会うことができたならば言ってやりたいことも、聞きたいこともあったはずなのに何故だかそれらは全て音にならず俺の脳内をぐるぐると駆け回っている。
あークソっ、店に誘うまではできたんだ!
こうなったらうだうだ考えてたって仕方がねえ!!
「……あんたに聞きたいことがある」
「はい」
やっと絞りだしたそんな俺の言葉に目の前の男は真剣な顔を崩さずじっと俺の目を見る。
その視線が陽仁に重なって見えて一瞬ひるんでしまう。
「あんたは一体陽仁の何なんだ」
「……」
「俺も陽仁もあんたは陽仁の父親なんだって勝手にそう思ってた。けど違った」
「……」
一度話し出してしまえばするすると言葉が出てくる。
そんな俺とは反対に目の前の男は黙ったままただ俺の言葉に耳を傾けている。
「この前、陽仁の父親だって名乗る人物が事務所に来た、春日野瑛翔。あんたはこいつの事知ってんのか?」
俺が出した人物の名前にずっと黙り込んでいた男がはっと息を吸ったのを俺は聞き逃さなかった。
「心当たりあるんだな。その人から聞いた話はあんたから聞いた話と殆ど同じだった。そんで見せられた写真で陽仁の父親なんだって認識した。そうしたらあんたは一体誰なんだって俺も、陽仁も疑問に思った」
「それは……」
何かを言いよどむ、そんな反応を気にせず俺は俺の思っていることを言ってしまおうと更に言葉を続ける。
「俺はあんたが陽仁にとって全くの他人だとは思えねぇ。たった1,2回しか会ってねぇけどそれでも仕草や表情、雰囲気が陽仁に似てるって何度も思った。それに何よりあんたの陽仁を見る表情、それが本当に愛おしいって、宝物を見るようなそんな表情をしてたから」
もしそこに欲が混じっていたならば直ぐに気づいたし、こんなに必死に陽仁が落ち込んでるからって探そうなんて絶対しなかった。
むしろ遠ざけて陽仁の記憶から早く消えてくれとさえ願ったかもしれない。
けれど違う
分かるんだ。
だって陽仁が俺に向ける表情に似てたから。
真っ白な純粋な好意、愛おしくて愛おしくて仕方がないって、ただそれだけの深い愛情。
それを感じ取ったから、だからこそ陽仁の為にもう一度見つけてその正体を暴かなければだなんてそんな使命感が生まれていたんだ。
「……君は本当によく陽仁を見ているんだね」
「まぁな」
「君みたいな子があの子の、陽仁の隣にずっといてくれたことを僕は心の底から感謝するし、幸運だったと思うよ」
そう、一度言葉を切り小さく微笑んだ後、再び口を開く。
「君の言う通り僕は陽仁と全くの赤の他人と言うわけではない」
そう言いきった男に目線だけで続きの言葉を促す。
そんな俺に対し今度は軽く苦笑して、眉を下げながらぽつりと言葉を零した。
「僕はあの子のお母さんの弟、つまり陽仁にとって叔父になるんだ」
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