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26.恋するアイドル
柊真side
「僕はあの子のお母さんの弟、つまり陽仁にとって叔父になるんだ」
眉を下げながらぽつりと零した言葉の意味を正確に脳が理解した瞬間、なるほどなと言う感情が浮かんだ。
言葉を発さない俺の事をどう思ったのか分からないが陽仁の叔父だと言った目の前の人物はそのまま言葉をつづけた。
「僕は仕事の都合で姉さんが義兄さん、瑛翔さんと結婚をしてからすぐ海外で生活をするようになってね、機械音痴な姉さんとは時々手紙のやり取りをするくらいしか交流が無かったんだ。僕らは他に身内も無くてね、姉さんだけが僕の唯一の家族だった。それなのに、いやだからかな、姉さんの訃報を僕が知ったのはその5年後だったんだ。言い訳になってしまうけれどその頃はかなり仕事が忙しくてね、家の郵便物はほぼ見れていなくて、だから姉さんからの手紙がパッタリと途絶えていたのに気が付かなかった。日本を発つ前に交換しておいた瑛翔さんにすぐ連絡をしたけれど繋がらなくて、妙な胸騒ぎを感じて急いで日本に帰ったよ。そうしてその足で姉さんと瑛翔さんの家へ向かえば昼間なのに鍵は開いていて、家の中には沢山のお酒の空き缶の山があってそのすぐ近くで寝転ぶ瑛翔さんの姿しかなかった。僕の姿をみて一瞬驚いた後、彼は言ったんだ。姉さんは子どもを産むと同時に亡くなったって、赤ん坊は見ていても辛くなるだけだから適当な施設の前に置いて来って。絶句した。姉さんが亡くなっていたのもそうだけれど自分の子どもをいとも簡単に手放したと言う目の前の義兄の態度にね。姉さんと彼が付き合っている時に何度か会った事があったけれどその時は温厚で人の良さそうな人だったから。そんな人がどうして、だなんて勝手にやるせない気持ちになったけれど周りに転がっている空き缶を見て瞬時にアルコール依存症なんて言葉が脳内に浮かび上がった。とりあえずこの人の現状をどうにかするのが先だって、一応姉さんが亡くなったと言っても義兄だったことに変わりはないからって、そこから直ぐ病院に行って、そうして適切な治療を受けられるよう専門の病院を紹介してもらってその手続きをして当面の生活費を払う約束をして陽仁の居場所を聞き出したんだ」
そう言って言葉を一度切り、すっかり冷え切っているであろう珈琲に口を付けた。
俺はと言うと、陽仁の実父への嫌悪が再びこみ上げてき、それを目の前の人物へと八つ当たりしないようすっかり氷の解け切った水と一緒に勢いよく飲み込んだ。
そうして数分の沈黙、再び口を開いたのは陽仁の叔父だった。
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