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27.恋するアイドル
柊真side
「それから暫くは義兄さんの世話や、仕事の関係で忙しくて施設に行くことができなかった。ようやく施設に行く機会が出来たのはそれから1年後の事だった。つまり君達が6つになった頃だね」
当時の事を思い出しているのか未だ眉は下げたまま、それでも優しい眼差しで言葉を続ける。
「一目見た時に直ぐに分かったよ。あぁ、この子が姉さんの子だって。姉さん譲りの髪の色、笑った時に下がる目尻、嬉しそうに目を輝かせて話す姿。まるで姉さんの幼い頃を見ているようだった。そしてその視線の先にはいつも君がいた。本当は施設に行ったその日に陽仁のこと、引き取るつもりだったんだ。施設長さんともそう言う話をしていた」
「なっ……」
そんな話、当然だが全く知らなかった。
だからこそ余計に驚きが大きくて思わず声を上げてしまう。
そんな俺の態度に小さく笑って
「でも、できなかった。そうするべきではないってその時思ったんだ」
と、言い切る。
「どうしてか分からないって顔をしているね。僕も当時どうしてそう思ったのかよく分からなかったんだけどね、でもあの時、あの施設で幸せそうに笑う陽仁と君の姿を見たら何故だか君達を引き離してはいけないってそう、強く思ったんだ」
「……たったそれだけの理由で陽仁のこと引き取るのやめたんですか」
「たったそれだけか……少なくとも当時の君や陽仁にとってはたったそれだけの事ではなかっただろ?」
そう、優しく問いかけられて何も答えられないでいる俺の事を気にせず開いた口から再び言葉が紡がれていく。
「もし僕が陽仁を引き取ることになっていれば陽仁はそのまま海外へ連れていくことになっていた。そうすればきっと君達が再会するなんてことなかっただろう」
そんな風に言われて有り得たかもしれない未来を想像して気分が悪くなる。
隣に陽仁がいない世界、そんなの例え想像だったとしてもごめんだ。
「気分を悪くさせてしまったかな、ごめんね」
「いえ、」
自分で勝手に想像して傷ついているのに謝らせてしまったことに居た堪れない気持ちになる。
こういう所も何となく陽仁に似ている……
「引き取りはやめたけれど、それでも時々日本に帰ってきては様子を見に行っていたんだ。義兄さんとのこともあったしね」
その言葉をきいてふと思い出したのは施設でのクリスマスや誕生日の時の事だ。
いつも何故だか陽仁と俺には小さいけれどプレゼントが2つあった。
他の子には内緒ね、と小さく笑って渡されるそのプレゼントを不思議に思いつつも毎年受け取っていた。
「クリスマスや誕生日のプレゼント……」
「自分の甥っ子が生きていると分かっているのになにもしないってことができなくてただの自己満足でね、つい」
「ならどうして俺にもくれたんですか」
「陽仁の隣にいてくれたお礼」
「なんですかそれ」
「これも自己満足だから」
「陽仁の事見守ってたのはここ最近の話じゃなかったんですね」
そんな俺の問いかけに小さく微笑む目の前の人物に先ほどから浮かび上がった質問をそのまま口に出す。
「ならなんで突然姿を現したんですか、父親だなんて嘘までついて」
その俺の言葉に一瞬言葉を詰まらせたが、小さく息を吸って口を開いた。
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