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28.恋するアイドル
柊真side
「姉さんと同じだったんだ」
「は?」
突拍子の無い言葉に思わず怪訝な声が漏れる。
そんな俺に苦笑しながらも言葉を続けようとするのが分かったので何も言わず視線だけで続きを促した。
「不安な時、何か問題を抱えているときの癖。君達がアイドルとしてテレビに活躍するようになって海外にいても陽仁の事を知ることが出来た。それが例えテレビ用に多少作られたキャラクターだったとしてもあの子が元気に生きている。それをいつでも感じられて最初のうちは単純に嬉しかったんだ。けれどここ最近になって陽仁の様子が少しおかしいんじゃないかって感じることがあってね、ただの勘みたいなものなんだけれどそうして気にしながら見ていたら小さく息を吸って指を何度かこする仕草が目について、姉さんの幼い頃からの癖が頭をよぎったんだ。その事がそれからずっと忘れられなくて、精神的に何かしんどいことがあってかなり追い詰められているんじゃないのかって、そう思ったら今更だと思ったけれど、放っておけなかった。会ったって何もできやしないと分かっていたのに居ても立っても居られなくなってそうして会いに来てしまった。」
そう、話し終えて多少緊張が解れたのか小さく息を吐き出す。
そんな行動を見ながら俺の頭の中に浮かんでいたのは桔平さんが言った、陽仁が何か思い悩んでいるのではと言う言葉だった。
陽仁が悩んでいることには心当たりしかない。
十中八九俺の事、だよな。
悩ませているのは知っていた
俺達の関係が変わるならそれで良いと思っていた
けれどいざ第三者の目から見ても陽仁の様子が変だってかなり追い詰められているように見えたなんてそんな事言われたら自分でも驚くくらい動揺する俺がいた
そんな俺の心情を知る由も無い桔平さんは
「けれど僕の存在自体が余計に陽仁を悩ませてしまったみたいだ。だからね、もう僕から陽仁に会いに行くことはしない、できないんだよ」
だなんて言う。
その言葉を聞いて思わず眉間にシワが寄る。
俺が陽仁の為にできること……
何のために目の前の人物の事を必死に探していたのか
今の陽仁に必要なのは悔しいけれど俺じゃない
ずっと傍にいたから分かる
「無責任じゃないっすか」
「え」
「陽仁に会いに来たの心配したからなんでしょ。それなのにもう会わないって、心配が解消されたわけでもないのに放り出すなんてできんのかよ」
「それは……」
「俺は、俺には父親の記憶も無いし、父親の存在とかどんなものなのかなんてわからないけど、でもそれでも陽仁の本当の父親だって言う男より、あんたのが父親だって言われた方がしっくりくる。それってそれだけあんたが陽仁に愛情を持ってるってのが赤の他人の俺にも伝わってるってことだ。それをあんたと直接過ごした陽仁に伝わってないなんてこと絶対無い」
その言葉に桔平さんの口から小さく息が漏れる。
「陽仁のこと大事なんだろ、心配なんだろ。過去の事とかあんたにはあんたの考えとかあんのかもしんねぇ、でもそんなの俺には知ったこっちゃない。俺にとって一番大切なのは陽仁だ。その陽仁が本物の父親騒動であんたの正体について心ここにあらずな現状が面白くないってのもまぁ本音ではあるけれど、俺はもう気落ちしている陽仁を見ていたくねぇんだ。だからもう一回ちゃんとあいつと会って話をして欲しい」
そんな俺の決死の言葉は
「君って、結構面白い子なんだね」
なんて、頓珍漢なことを言われて笑われた。
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