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007 エロトークは苦手だ:S

「シン先輩とは変わりないか?」  アジとエビのフライに大盛りご飯、味噌汁、サラダの夕飯をかき込みながら、(たすく)に尋ねた。 「ん。順調。テスト終わるまで会えねぇけどな」 「あと3日か」  佑が1年以上思い続けたシン先輩とつき合い始めたのは、夏休みが明けてすぐの頃だ。  それまで何度も恋の悩みを聞いてきたからか。オーケーをもらった時は、俺も手放しで喜んだ。もちろん、今も応援してるが……。 「やれねぇの、つらい……もう10日もセルフだぜ」  深い溜息とともに欲求不満を口にする佑に。 「相手がいないヤツらはみんなそうだぞ。俺もだ」  ごくあたりまえの事実を思い出させる。 「わかってるけどさ。初めてやって、まだ2ヶ月じゃん? セックス気持ちいいの知っちゃったからよ」  箸を止めた佑が俺を見る。 「お前、オナるとき後ろもイジる?」  いきなりの問いに、味噌汁でむせた。  恋人が出来てからの佑の悩みゴトは、9割がセックスのことだ。  先輩とのつき合いは応援してるが……ざっくばらんなエロ相談は、正直まだ慣れない。  ましてや、今は飯の最中で。  話の内容がわかるほど近くに人はいなくても、ここでその類の問いはないだろ。 「どうした、いきなり……」  呼吸を整え、麦茶を飲んで言った。 「男とつき合った時、抱かれるほうだったんなら。自分でもそうしたくなるもん?」 「……いや。俺はない」 「普通に前だけ?」 「……そうだが……何で今そんなこと聞く? そういうのは部屋でにしろ」  佑とは赤裸々にエロ方面も話せる仲だから答えるが、さらに生々しいほうに話が進む前に……せめて場所は変えてくれ。 「明日テストなのに部屋行ったら、延々話し込んじまう。だから、とりあえず。これだけ聞きたくてよ」 「何で……急ぎで知りたいことか?」 「だってさ。俺は当然、シンとやってんの想像して抜いてるけど。あいつも俺を思い出してくれてっかな……って」  臆面もなく、佑がニヤけた顔で続ける。 「早くやりてぇって、思ってもらえてっかなー。ちんこよりアナルでイキてぇってくらいになったら、オナる時も……」 「ストップだ、佑」  声の届く距離に1年が3人来た。  羞恥心の問題じゃなく、常識としてよくないだろ。 「お前、ほんと恥ずかしがりやだな。男だけしかいねぇとこで気にし過ぎ」  笑う佑に、少し険しい目を向ける。  自分でも……わかってる。  下ネタなんぞ、スポーツやゲームの話題と同じノリ。かなりの内容を話してても、眉をひそめるヤツは滅多にいない。  親しい人間の前でならなんとか平気だが、エロトークは苦手だ。  うちの学園はゲイが多いせいで、男同士のセックスも日常ネタで。背徳感もタブーもほぼなしで……俺の価値観のほうがズレてるってのは、もう知ってる。  だが、それはそれ。  俺は未だ過去に囚われた、色恋に臆病なガキなんだ。 「部屋でならいくらでも聞いてやる。ここじゃ、俺みたいに羞恥心強いヤツがいて……飯が食いにくくなるかもしれないだろ」 「ハイハイ」  頷いて、佑が残りの夕飯に箸を伸ばす。 「でも、今夜は勉強しねぇと。補習はごめんだからな」 「ああ。俺も……ちょっと相談したいことがある。テスト終わってから……」 「え! 気になるヤツ出来たのか?」  興奮気味な佑の反応に気圧されつつ、口に入れたフライと飯を飲み込んで。 「まぁ……もしかしたら、な」 「誰だよ? 俺の知ってるヤツ?」 「知ってはいるが……」 「誰?」  答えるのをためらった。  同じクラスになったことはなくても、佑は玲史を知ってる。俺の友達として、何度も話題に出したからだ。  ゲイなのも知ってる。  タチなのは知らない。  サドなのも知らない。  1年の夏ぐらいに聞かれた。 『高畑、かわいいじゃん。そばにいたらムラムラッとしてこねぇ?』 『クラスメイトをそういう目では見ない。そもそも、今まで一度も……やりたいと思った男はいない。女も』 『男とやったことあるっつってたよな。彼氏いたんじゃねぇの?』  俺の答えを疑問に思った佑に。好きなわけでもやりたかったわけでもなく、半ば強いられてつき合った時のことを話した。  それ以来、佑は俺をネコだと認識してる。  玲史がタチなのはあまり知られてない。  『俺が気になるヤツ』が玲史だと、すぐには思わないだろう。  自分でも意外なんだから……なおさらだ。 「今度ゆっくり……お前が先輩と予定ない日にでも、話聞いてくれ」 「もったいつけんなよ。あ……けっこうマジなの?」  方眉を上げる佑に、うっすらと微笑み。 「それが自分じゃわからない。恋愛ってもん、したことないからな」  言って溜息をつく。  今さらながら思う。  セックスを経験する前に。誰かを好きだって感情…好きになるって感覚を、知っておくべきだった。

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