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012 一生味わえない幻かも:R

「ノーマルなセックスが出来なそうで……」  そう続けた幸汰(こうた)の言葉に微笑んだ。  ノーマルセックスなんて、つまんない。  どうせやるなら刺激がないとね。  苦しげな喘ぎ声と懇願。  理性飛ばした瞳。  それがなきゃ、気持ちよさも半減しちゃう。 「SMプレイでいいでしょ。むしろ喜ぶよ」 「どこまでやっていいのか、わからない」 「ちょっとずつ、やってけばわかるって」 「清崇(きよたか)が嫌がったら……」 「本気で嫌ならちゃんと言うし、わかるから」  なんか。  レクチャーしてるっぽくなってきた。 「はじめから飛ばさないでさ。最初はソフトに。好きならガマン、出来るでしょ?」 「好きだから……タガが外れそうで。俺、あいつを壊しちゃいそうで……」 「大丈夫だよ」 「……壊したいんだ」 「は……?」 「ケガさせたり傷つけたりしたいんじゃないよ」  幸汰が頭を振った。 「セックスの間だけでも、俺だけのものにしたい……身体も、心も……全部。あいつを、俺しか認識しない状態にしたい……一時でも」  束の間の沈黙。 「いいんじゃない? 支配したいんでしょ? そういう愛もあるって聞くし。僕はそこまでしたことないけど、清崇はメンタル強そうだし」  思ったままを言った。  S入ってる幸汰の欲望。  半分はわかるし、僕にもある。  もう半分は……僕にない欲だ。  好きな男の全部、自分のモノに……って。  差し出すほうより受け取るほうのがキツくない?  めんどくさいじゃん?  それなりにおいしいとこ、ほしい分だけつまむのが楽じゃない?  最高においしい部分ってのがあるのかもしれないけど。  丸ごとの真ん中にあるタネみたいなとこなのかもしれないけど。  愛っていうのがなきゃ、存在しない部分かもしれないなら……。  僕には一生味わえない幻かもしれないけどね。   「きみは……清崇とSMプレイを……? その……縛ったり、したのか?」  聞かれて。 「うん。拘束は基本でしょ」  素直に答えると。 「そう……か」  呟いて。幸汰がコーヒーをゴクゴク飲む。  なんていうの?  目の前の男がそわそわ……ドギマギ?  頬赤らめてる感じ。  今、好きな男を壊したいって言ってた幸汰が。  拘束程度で……純情なのか。  サドのくせに。  年上の人だけど。  かわいいじゃん! 「ねぇ。清崇とやってた僕に怒りとかはないの?」 「え?」  妄想世界から戻ったように瞬いて、幸汰の目が僕に焦点を合わせる。 「きみとつき合う前からで、ただのセフレだけど。僕にムカついてないの?」  繰り返し。  プラス。 「清崇には? 怒ってる?」 「いや……」  幸汰の瞳に嘘はなさそう。 「どっちかといえば……興奮してる」 「は……」  笑った。  微笑ましくて。 「じゃあ、僕のことでケンカしないね」 「責める気はないよ。つき合ってるのに……やろうとしなかった俺も悪いから」  恋人が出来ても僕と続けてた清崇に、ほとんどの非があると思う……けど、これでひと安心。 「よかった」 「ありがとう。変な話だけど、きみのおかげで覚悟を決めた」  妙に真剣な顔で礼を言う幸汰。 「あいつに会うの……緊張するな」 「今日、清崇は?」 「カバラ研究のサークルに出てる。俺も少ししたら戻るよ」 「ここ、大学に近いんだよね? 僕といるとこ、知り合いに見られてもいいの? 清崇本人にも」 「見られたら見られたで、きっかけになるかもと思ったんだ。だから、かまわない」 「じゃあ、ちょうどよかった」  チラリと向けた店の入口に。奥まったこのテーブルにいる僕たちを見て、ずんずん歩いて来る人影を確認。  いいタイミング。 「幸汰!」  ビクッとして、その声のほうへ向けた幸汰の目が見開く。 「さっき入れたメッセージ。きみと一緒にいるから今すぐ来て……って」  僕に視線を戻した幸汰に、肩を竦めて見せた。 「きっかけ、でしょ?」 「幸汰……玲史……何で……」  目の前まで来て。肩で息をして立ち尽くす清崇が、僕と幸汰を交互に見やる。 「幸汰くんに呼び出されたの」 「はぁ……!?」 「話は済んだから。あとは二人でごゆっくり」 「お、おい……!」  状況が飲み込めずうろたえる清崇に、意地悪い笑みを向けて。 「僕とは終わり。これからは幸汰くんにいじめてもらって」 「いじ……え……?」  再び、僕と幸汰に視線を往復させる清崇は放って。 「あ。もし、人に見られながらやりたくなったら見てあげるし。わかんないことあったら気軽に連絡して」  僕の言葉に、幸汰がニヤリ。  うん。いい笑顔。 「ありがとう。玲史くん」 「バイバイ」  二人に告げて、テーブルを離れた。  焦った清崇の声が遠ざかる。  カフェを出て、伸びをした。  あーちょっとムラムラ。  誰か手頃なのと……。  あーでも。  頭に浮かんじゃったから、今日はナシ。ほかの男抱く気にならないや。  あー……紫道とやりたいな。

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