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013 救助要員として待機中:S

「川北、お願い」  涼弥と御坂と一緒に、学園から歩いて5分の寮に帰宅して。1階にあるコミュニケーションルームで、御坂(みさか)樹生(いつき)が俺に手を合わせた。  昨日頼まれた、(かい)と江藤の話し合いに何かあった時の救助要員として待機中。通りかかった(たすく)と入口らへんで立ち話して戻ったところだ。  チラッと、Cルームの窓際を行ったり来たりする涼弥を見やる。 「俺じゃダメだわ」  御坂が俺にお願いしてるのは、涼弥の不安解消だ。  うちのクラス一の秀才で物静かな鈴屋が、江藤の隣の部屋に住む3年と一緒に様子を窺ってる。  將悟(そうご)は江藤と会ってる凱を心配して。生徒会役員と親交の深い、2-Aの上沢と一緒に見張りに行ってる。  涼弥は將悟が心配で。ここで俺と御坂と、もしもの時に備えてスタンバイ。  そして。  早いうちに將悟がスマホの電源を切ったおかげで、涼弥の不安はマックス近いらしく……殺気立ってる。 「お前が宥めたほうが素直に聞くよ。杉原、俺のこと女好きの遊び人って思ってるから。大丈夫って言っても軽く聞こえるみたいでさ」  それは仕方ないんじゃないか……。  御坂は將悟の双子の姉の元カレで。  別れたのは、度重なる御坂の浮気が原因で。  涼弥は將悟たち姉弟と幼馴染みで。  実際にどうだかは知らないが、御坂がセックスを軽く考えてると思うのも無理はない。 「わかった」 「頼むな」  了解し、ちょうど近づいてきた涼弥のところへ。 「涼弥。少し落ち着け」  声をかけると、涼弥が足を止めた。 「落ち着いてる。將悟は無事だ」 「ああ、そうだ。心配するな。お前たちのこと、上沢は知ってるんだろ?」 「知ってるから何だ。よけい不安なだけだ」  溜息をつき、涼弥が俺を見つめる。 「上沢は油断ならねぇが、それより……凱がもし…」 「凱が心配か?」  聞くと、涼弥が乾いた笑いを漏らした。 「いや、あんまり。おとなしくやられるタマじゃねぇだろ」 「江藤がレイプ魔っての……玲史は否定してたぞ」 「逆レイプだってな」 「そうなら、ムリヤリその気にさせるのはは難しいんじゃないか」 「凱のヤツは余裕そうだったがよ。人数いりゃ、なんとでもなるだろ。押さえつけてでも……縛りつけてでも」  合わせた涼弥の瞳が微かに揺れる。 「助けにいきゃ、將悟がその場面……見ちまう」 「そ……」  それの何が問題か。  口にする前に、思いあたった。  1年の終わり。  この寮で、將悟がレイプ未遂にあった。  ひとつ上の先輩の部屋。  涼弥に続いて駆けつけた時、將悟はベッドに括られてて……やられる寸前だった。 「自分じゃ大丈夫だっつってるが、あいつはしっかり覚えてる。似たようなとこ見て怯えさせたくねぇ……」  涼弥が顔をしかめる。 「凱がうまく立ち回ってくれりゃいいが……あの男も油断ならねぇからな」 「本気なんだな。將悟のこと」  こんな不安げな涼弥をはじめて見た。   「涼弥……聞いていいか?」  いいってふうに、涼弥が首をちょっと傾げる。 「將悟が襲われた時、お前もう……好きだったか?」 「とっくにな」 「ずっと隠してたのか」 「ああ、失くしたくなかった。アレがあってからは必死だ……怖がらせたくなくてよ」  笑い声がして、二人で御坂を見やる。  電話で誰かと話してるが……聞こえる限りじゃ、相手は女っぽい。緊急連絡じゃないようだ。 「將悟が俺を……ってのは、考えもしなかった。夢じゃねぇかってな」  目を覚ますように瞬き、涼弥が俺に視線を戻す。 「現実だろ」 「ああ。最高の」 「よかったな」  互いに笑みを浮かべた。 「だから……」  涼弥の目が険しくなる。 「今日のコレが、心配で仕方ねぇ」  話してる間に薄れさせたと思った涼弥の不安を、また濃くさせたか。  半年前のこと、思い出してるのか。  今回危険があるのは凱で、將悟じゃないが……。  この寮で。  先輩の部屋で。  好きな相手が、ほかの男に犯される寸前の場面を見た。  その時の涼弥は怒り心頭だったが、もし……同じような場面を將悟が目にしたら……。 「鈴屋! どうした!?」  御坂が声を上げた。  いつの間にか、電話の相手は鈴屋に変わってる。 「すぐ行く!」  通話を切った御坂が俺と涼弥を見る。 「ブザーが鳴った……」  御坂が言い終わる前に、涼弥がCルームを飛び出した。 「行こう」  御坂とともに、涼弥のあとを追った。 「防犯ブザーは、ベルト外されたら鳴るんだな?」  3階へと階段を駆け上がりながら、御坂に問う。 「うん。凱のアイデアで。自分で外せば鳴らないけど、鳴ったから……」  江藤か、ほかの人間に外された。 「鈴屋は隣だし、將悟も……近くで見張ってるはずだから、もう着いてるはず」 「大丈夫だよな」 「凱なら心配要らないって。5分も時間経たないしさ」 「ならいいが……」  御坂の言葉に、將悟への心配は入ってないだろう。  3階の廊下に出る。  奥から2番目の部屋の前に人影。  近づく俺と御坂に。 「野次馬は追っ払っといたぜ」  言ったのは、3年の斉木だ。 「俺は鈴屋に頼まれただけだから、コレには口出さねぇよ」 「ありがとうございます」  御坂が礼を言い、斉木が隣の部屋へ。  鈴屋がそこで待機してたなら、ブザーが鳴って駆けつけるのに大して時間はかからなかっただろう。  江藤の部屋のドアは壊されたふうじゃないから、鍵もかかってなかったようだ。  開かれたドアから中に入ると、個室から涼弥と將悟が出てきた。 「凱を頼むな」  將悟が言った。 「あ……うん」  頷いた御坂が個室へと急ぐ。 「大丈夫か?」  心なしか顔色の悪い將悟に声をかける。 「ん。ちょっと外の空気吸ってくる」  不自然な笑みを見せる將悟と目を合わせ。 「將悟。思い出すのは当然だ。忘れるのは無理でも、思い出しても平気になる」  口にした言葉。  どこかで自分に重ねてる……そう、言い聞かせてる。 「大丈夫だ。お前は強い」  それでも、本心だ。  涼弥を好きだと言える將悟は、俺よりずっと強い。  將悟が大きく息をついた。 「ありがと……な。大丈夫……」 「俺がいる」  將悟を支える涼弥がキッパリ言うのを見て安心する。 「あとは頼む。つっても、凱は何ともねぇ。自分で江藤と話つけられるだろ」  頷くと、2人は部屋を出ていった。

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