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014 いろいろ抱えてる:S
個室では。ベッドの脇で凱 が服を整える傍ら、鈴屋がベルトから防犯ブザーを取り外してるところだった。
ベッドヘッドには手枷。上のボタンをハメてない凱のシャツの間から、鎖骨らへんについた赤い痣が見えた。
俺と御坂、鈴屋の見守る中。
江藤、上沢……そして、生徒会役員の天野が凱に謝った。
3年の天野は、会長の江藤の逆レイプを手伝うためにいたらしい。
上沢が一緒に謝る理由はわからない。そもそも、どうして將悟 と見張りをしてたのかも知らない。
涼弥の言った通り。凱は何も起きなかったみたいに、平然として。
「別にいーよ。やられても、やらされてもいねぇからさ。あとはそっちで解決してねー」
3人の謝罪を軽く受け入れた。
「ミッション完了。行こーぜ」
俺たちに笑顔を向ける凱に、御坂と鈴屋と顔を見合わせる。
レイプが逆で、未遂だとしても。
ベッドに拘束されて服を剥がされ、キスマークをつけられて……それだけなのか?
傷ついちゃいないんだろう。
凱にとって、大したことじゃないんだろう。
だけど。
少しくらい、怒りはないのか。
気分を害されちゃいないのか。
モヤモヤしつつ、俺たちは個室を後に……。
「柏葉。マジで悪かった……この埋め合わせはする」
ドアの前までついてきた上沢が、もう一度謝った。
「お前のせいじゃねぇだろ」
「責めんなら、俺にしてくれ」
「誰も責めねぇよ。あ。でも、逆レイプはちゃんとやめさせてねー」
「わかってる。俺がもっとしっかりすりゃいい」
「んじゃ、また」
上沢に手を振った凱に続き、俺たちは江藤の部屋を後にした。
「お疲れ。来てくれてサンキュ」
Cルームへと歩きながら、凱が礼を言う。
「僕が入った時、先に將悟が来てたけど……どこにいたのかな」
「もういっこの個室じゃねぇの?」
鈴屋の問いに凱が答え。
「上沢が一緒なら、見張りはそこが最適だね。スマホをオフにしたのも、だからか」
御坂が納得する。
「何で……上沢が?」
疑問だったことを聞いた。
「あいつ、江藤の彼氏でさー」
「そう……か」
意外……でもないのか。
杉原と同じA組の上沢とは顔見知り程度でよくは知らないが、さっきの様子から頷ける。
「委員長、具合悪そうだったけど……」
心配顔の鈴屋に。
「ずっと気張ってて疲れたんじゃん? 涼弥がいれば大丈夫だろ」
そう言った凱が、さり気なく俺と目を合わせる。
片方の眉をちょっと上げたその瞳から、凱が將悟のレイプ未遂の件を知ってるのがわかった。それを思い出して、気分が悪くなったことも。
俺が知ってることもだ。
「凱。お前は大丈夫か?」
「全然平気。縛られんのはあんま好きじゃねぇけど、そんだけだしねー」
確認する俺に、無邪気に笑う凱。
「何されても、ムリヤリじゃその気になんねぇよ。身体が勝手になっちゃうのは不可抗力じゃん?」
「あ、ああ……間に合って……よかった」
少しどもり気味になった俺をジッと見つめる凱から、つい目を逸した。
「將悟たち、いないね。外かな?」
Cルームを見回し、御坂が言う。
「カバン預かってるから、帰っちゃってはないはず」
「僕たちも外出とこうか。ここ、人集まってるし……何かあるの?」
鈴屋の問いは、寮に住む俺に向けられてる。
「学祭前の生徒会選挙に合わせて、風紀委員も代替わりだ。毎年、1年の寮生から何人か委員になる。必要な時、すぐ学園に出動出来るからな」
「へぇ……じゃあ、それ決めてるんだ」
「去年はくじ引きだった」
「川北が風紀委員なら、イメージにピッタリだね。強くてマジメな感じ」
「そーね。正義の味方、似合うぜ」
鈴屋に続く凱のコメントに、薄く笑った。
去年のくじ引きで当たった3人のうちのひとりは佑 だ。現在の風紀委員で、来期も継続らしい。
話を聞く限りじゃ、今の風紀……特に3年はクセのあるキャラが多くて、正義の味方ってよりも裏番みたいだという。
『来期の委員にお前もなれよ』
そう勧められてはいるが……正義の味方ってヤツになるつもりはない。
もちろん、裏番にもだ。
「正義の味方にはお前がなれ、凱」
「んー俺は無理。悪者退治は趣味なの」
唇の端を上げた凱の瞳が獰猛な獣のように光る。
「許せねぇヤツ潰すだけ。正義感とかねぇもん」
「……そうか」
何てコメントしていいかわからない。
凱にも、いろいろあるんだろう。
「んじゃ、外で將悟たち待とうぜ」
邪気のない瞳に戻った凱に頷き、俺たち4人はCルームを後にした。
寮の玄関から少し離れたところで將悟と涼弥を待つ間。鈴屋が防犯ブザーを凱に返した……2つ。
ひとつは凱をから取り外したもので、もうひとつは鈴屋がつけてたものらしい。
鈴屋の説明によると。
江藤の隣の部屋の主で一緒にいた斉木に襲われた場合に備えて、とのこと。
そもそも、斉木の部屋で待機してたのは、つき合ってるからだという。
1ヶ月間、お試しで。
つき合ってるカタチでも、望まない限り手は出さないって条件で。
あくまでも、斉木が鈴屋に自分を知ってもらいたいって目的のつき合いだが……信用出来ない。だから、防犯ブザーをつけた。
なら、どうして試すのか。
その理由は。賭けに負けたから、だそうだ。
心底嫌なら。そんな賭け自体しないよな。
鈴屋にも、いろいろあるんだろう。
みんなそれぞれ……いろいろ抱えてる。
そんな話をしながら待つこと5分。
寮の裏手から、將悟と涼弥が現れた。
落ち着いた様子の將悟にホッとして。駅に向かうみんなを見送り、寮内に戻った。
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