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025 直感を信じて:R

 木曜の昼休み。  さっさとランチを終えた僕と紫道(しのみち)は、風紀委員会本部に向かってる。  第二校舎3階の廊下に入ったところで、見覚えのある人物を発見。 「杉原!」  振り向いた顔は少し不安げ。 「何してるの? 悪いことして呼び出されでもした?」  からかうように尋ねると、杉原が眉を寄せた。 「お前らと同じ、風紀委員の立候補だ。昨日決めた」 「え?」  隣に来た紫道と顔を見合わせる。  今日は將悟(そうご)と話すヒマなかったから、何も聞いてないけど……杉原が風紀委員になるなんて、將悟が原因だよね。  それを聞く前に。 「なれるといいが……」  杉原が呟いた。 「なれるでしょ。きみはケンカ強いし、レイプはしないだろうし。顔も怖めだし」  見た目的には、僕のほうが風紀向きじゃない。 「そんなにライバルもいなそうだし」  集合時間の12時45分まで、あと5分足らず。  この廊下の西側奥が風紀の本部で、その前にいる人影は3人。 「余裕じゃない?」  杉原が深い息をつく。 「高畑。お前もちょっとは心配しろ」 「何で?」 「……先週の、瓜生(くりゅう)に見られてんだ。俺もお前も……印象いいわけねぇだろ」  先週のって。  杉原が水本に動画の件でいじめられてるの、駅裏のバルに助けに行ったやつ?  瓜生って、風紀委員長?  あの場にいた向こうサイドのうちの学園は、水本ともうひとり……。  あの男が……!? 「あの時、水本と一緒にいたのが瓜生……なの?」 「そうだ。顔、知らなかったか」 「うん。あーアレ見られてたの、マイナスかなぁ。そんな悪いことしてないと思うんだけど」  杉原がジト目で僕を見る。 「俺だったら、殴られたほうがマシだ」 「へぇ……きみ、S寄りっぽいのにMの気あるの」  やっぱり、僕の好みだな。タチで將悟の彼氏なのが残念。  でも。僕には紫道がいるから……。 「は!?」  ひと呼吸遅れて、杉原が不機嫌な声を上げる。 「そうじゃねぇ。お前の感覚がズレてんだ」 「玲史。お前、何したんだ?」 「あーそれ……」  紫道に答えようとしたら。 「立候補者、入ってー!」  風紀本部のドアが開き、陽気な声で呼ばれた。 「あとでね」  紫道に笑みを向けて。  僕たち3人は、委員選別の場へと急いだ。  風紀の根城は普通の教室より少し狭く、パソコンや書類の載ったデスクが10台ほど真ん中へんにあって。左側にも同様のデスク2台、何も置いてない机とイスが数脚。右側の奥にドアが2つある。 「時間だし。12人、全員そろったから始めるよー」  本部の前にいた2年3人とともに中に入ると、すでに1年が4人いた。すぐにもう2人2年生が来たところで、風紀委員の3年が言った。 「2年生委員2人が続行。寮生の1年生3人はすでに面接済。残りの立候補認定者は出来れば7人。少なくても5人はほしいから、みんながんばってねー」  半分落ちるかもってこと……か。  予想よりキビシイじゃん。 「俺は副委員長の坂口。あっちが委員長の瓜生」  威圧感ゼロの軽い口調のこの男、坂口が手で示すほう……奥のドアの前に、いつの前にか瓜生がいる。 「面接は委員長がする予定だけどさ。怖くてキビシイあいつはパスして、俺と面接したい人。はい、挙手!」  お手本みたいに手を挙げて、坂口が僕たちを見回した。  何ソレ。  そう言われてハイって手挙げたら、即落とされるとか?  横を見ると、困惑顔で僕を見返す紫道。その斜め前の位置から僕に視線を向ける杉原と目が合った。  どうする? 瓜生より坂口と面接したほうが分があるか? それともこれは引っかけか?  そう聞いてるかもしれないけど、聞こえない。瞳で語り合えるほど親しくないもん。  自分で判断するしかない。  今すぐ。  直感を信じて……。  手を挙げた。  驚いたふうな杉原に軽く頷いて、坂口に視線を移す。 「おー、名前は?」 「高畑玲史」 「んじゃ、玲史くんはこっち来て」  親しげに呼ばれ。不安げな紫道に微笑んで、言われた通り前に出た。 「あと、その1年も。きみは誰?」 「木谷(きたに)翔太(しょうた)です」  答えて、僕の脇に来たこの子。  わりと好みのタイプだなーって……ダメ。今はこっちに集中。これから面接。 「翔太くんね。ほかいない? いいのー?」  誰も手を挙げず。  杉原も、瓜生との面接を選んだみたい。 「それじゃ、みんなは委員長の指示に従って。ひとりずつ、あっちの部屋で面接になるから」  ひとりずつ……時間、足りるの?  昼休みあと40分くらいで。ひとり5分、10人で50分かかるじゃん。 「きみたちは俺ともういっこの部屋で。さ、行こ」  坂口に後ろから2人まとめて抱えられるようにして。僕と1年の翔太は、奥のドアへと連れていかれた。  開いたドアの向こうには、学園の中じゃ見慣れないもの……ベッドが3つ並んでた。スチールフレームの簡易ベッド。マットレスの上に畳んだシーツと毛布、枕がのってる。  ベッドって、保健室にしかないものだと思ってたけど。 「ここは仮眠室。仕事が立て込んだ時とかに使う。15分眠れるだけでも頭、クリアになるからさ」  坂口の説明に一応納得。 「楽にして、そのへん座って。チャッチャと済まそうか」  ドア近くにある棚に寄りかかる坂口に言われて、手前のベッドのフチに腰かける。少し離れたとこに、翔太も。 「最初に大事な注意点言っとく」  ヘラヘラしてた坂口が、真顔で僕たちを見据え。 「俺、嘘つかれんのが一番嫌い。嘘ついた時点で落とすぜ」  口角を上げて。 「100パー俺にバレない自信あるなら、何言ってもいいけどね」   緩い表情に戻って僕を見る。 「じゃあ、質問。2年の玲史くんから」 「はい」  聞かれたのは……。 「きみは、何で風紀委員になりたいの?」  コレ。  どう答えるべき、かなぁ。

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