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027 知らない:R

 坂口が戻るのを待つ間、翔太と友好を深めた。  いろいろ話すうちに。この素直な後輩がわりと抜け目なく如才なく、シニカルな面もあるおもしろい子だってわかってきて。 「さっきの身のこなしもキレがよかったですもんね。タチだっていうし、見た目とギャップあり過ぎでしょ」  翔太のほうも遠慮ない物言いになってきた。 「外見は僕のせいじゃないし、変なの寄ってきてうんざりだったし。自分を守る術は必要だから身につけたし。タチは好みの問題」 「高畑さんが好きだって人、見てみたいな」 「恋愛したことないから……きみと同じような好きか、わからないけど。見れるよ。あっちにいる」 「え? 今ここ、風紀にいるんですか?」 「委員長と面接してる。もう終わってるかも」  翔太が僕をジッと見る。 「つき合うんですよね。合格したから」 「うん」 「……恋愛したことがない?」 「うん。友達として好きはあるけどね。紫道(しのみち)のことはすごく抱きたい」 「それ、恋じゃないんですか?」 「んー……向こうも恋愛感情あるかわからないみたいだし。遊びでセックスしないって言うから。つき合えば遊びじゃないじゃん? だからつき合うことにしたの」 「なんか……」  翔太が微妙な笑みを浮かべる。 「高畑さんて、タフで老獪そうなのに心のその部分だけ置き去りっていうか。どこかアンバランスな感じ……俺、人の弱いとこに敏感なんです」 「僕のどこが弱いの」 「知らないんでしょ? 愛のチカラってやつ」  愛!?  の、チカラって……!  そんなクサい言葉リアルで使うの、はじめて聞いたよ……!? 「知らない。愛って僕には幻だから。あるなら見せて」 「残念。相手にしか見えないっていうか、感じられない……だけど。チカラがあるって信じると、無敵になります」  僕より数段キレイな瞳をした後輩に、懐疑的な目を向けた。 「俺、合格したでしょ? 坂口さんとの面接選んだのも、そのチカラのお導きで……バッチリ!」  堂々と言い放つ翔太。 「じゃあ、無敵にならなきゃいけない場面で信じてみるよ」  礼儀上そう返したところで、ガチャリとドアが開いた。  戻ってきた坂口に。 「放置しちゃってごめんねー、あっちと一緒にもうすぐ解散」  そう言われて仮眠室を出ると、そこには2年が4人だけ。 「合格の人たちですか?」 「そう。1年はきみ以外落ちたけど、寮からの3人がいるから」 「はい。うちのクラスにひとりいます」  坂口と翔太の会話を背に、もう一度確認……。  紫道、いないじゃん……!  まさかダメだった?  杉原は、いる……。 「紫道は? 落ちたの!?」 「いや。面接中だ」  デスクのとこのイスに座ってる杉原が答える。 「そっか……」 「あれ? まだ終わってないのか。ラストひとり……長いな。即決出来そうなヤツだったのに」  ホッとしたところに坂口の言葉。 「瓜生(くりゅう)……委員長の面接、速いヤツは1分で落とされてたぞ。だから、まぁ……大丈夫だろ」  杉原がフォロー……。 「あ。出てきた」  坂口の声で、ドアのほうに目を向けた。  紫道と瓜生がこっちへ。 「どう?」 「採用だ」  坂口が聞いて、瓜生が答え。 「これで7人。正式決定はまだだが、仕事の予行はしてもらう。連絡先を記入していけ」  淡々と続ける。  さすが風紀委員長。校外で見るより威圧感あるね。 「じきに予鈴だ。授業に遅れるなよ」  言われた通り。配られた紙に急いで電話番号とメアドを書いて、風紀の本部を後にした。  予鈴の響く中、紫道と廊下を小走り。次は芸術で僕は美術室、紫道は書道室だから、階段を下りたら別々になる。  瓜生の面接はどんなだったのか、とか。  風紀はほぼ決まりだけど、僕側の約束は正式決定した時に完了? とか。  つき合うのはいつから、とか。  聞きたいことあるけど、今は時間ナシ。 「今日、終わったらゆっくりね」 「玲史」  紫道が物言いたげな瞳を向けてくる。 「立候補、認定されたな……」 「うん。一緒に風紀委員になれるね」 「……あとで、帰りに……話そう」 「オッケー」  1階に着いた僕たちは、それぞれの教室へと向かった。

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