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039 自分でも謎:R

 紫道(しのみち)とつき合い始めて初の週末は、会うことさえなく過ぎた。  ナンパもしてない。過去のセフレと遊んでもいない、清い休日。  適当な誰かを抱いて楽しんだって、紫道に知られることはないのに……っていうかさ。  知ったら。やっぱり紫道は嫌なのかな?  彼氏がほかの男とセックスするって、普通はムカつくものなんだよね。  悲しいとか。許せないとか。傷つくとか?  あー、でも。  清崇(きよたか)の彼氏……幸汰(こうた)くんは、そんなことなかったっけ。清崇を本気で好きでも、僕とのことムカついてなかった。  まぁ、僕に見せたのだけが本心じゃないにしても。  それに。紫道は僕の恋人になったけど、僕たちの恋はまだカタチだけだしね。  カタチ、次に身体。心は……どうだろ。  紫道が好き。友達の好きだけじゃなく。セックスしたい好き。  これが恋かどうか、いつかわかればいいな。  そのくらい、不確かであやふやで……幻。    たぶん、紫道も似たようなものなはず。  だから、とにかく。  よそで性欲発散しなかったのは、紫道に悪いかなーって思ったからじゃない。  ただ単に、その気にならなかっただけ。  適当な誰かを抱きたいと思わない。適当な誰かを抱いて楽しめるって気がしない。自分でも謎。  今、めちゃくちゃに抱きたいのは紫道しかいない。  来週、必ず抱けるってわかってるから我慢出来る。  焦らすのは好きだけど、焦らされるのは好きじゃないけど。こういう我慢も悪くない……かな。  月曜から、学祭の準備が本格的に始まり。  うちのクラスの出し物はお化け屋敷。僕と紫道はゾンビ役。その衣装が、昼休みに配布された。  蒼隼学園の制服……サイズが合わなくなって不要になったり、卒業時に寄付された中古の。学祭用品倉庫に山ほどあるそれは、使い放題で使い捨てオッケー。  ゾンビの衣装だから、破ってボロボロにする予定。  放課後。化け屋敷をやる第3多目的教室での作業に取りかかった。  紫道と將悟(そうご)と3人で作る仕掛けは、ゾンビ増殖シーン。  ベッドに横たわる男に忍び寄り、噛みつくゾンビ。2体になったゾンビが、仲間を増やしにフラフラと客へと歩き出す。  もちろん。  僕が紫道に噛みつく役ね。ヴァンパイヤよろしく、首筋に。  ベッドに見立てる長机にかぶせる布はこれでいいかな。無地の生成り色なら、血の赤が映えるし。厚手のじゃないと、机が硬くて背中痛いだろうし……紫道が。  ふと2人を見ると。  シャーペン片手に、紫道はゾンビ衣装のシャツのどこを裂こうか思案中。將悟は、手にした枕に視線を落としてボーッとしてる。 「將悟。週末は杉原とやったの」  僕の声で上げた將悟の顔……先週より色気が増してる。  まぁ、やるよね。  一度やったら、飽きるまでは。 「満足したんだ。杉原って、やっぱり攻め好きのバリタチか。ネコにしたかったのにな」  將悟のこと大好きみたいだし。乱れて淫乱にねだらせるの好きそうだし。どっちかっていえばSっぽいし。  杉原を僕のネコにするのは無理か。  2人の仲を引き裂く気はないし。僕には紫道がいるから、いいんだけど。  欲求不満っていうの?   この、はじめての焦れた感じが……胸を引っ掻いてて。イジワルな気分になっちゃうだけ。 「やったし、満足もした……けど」  將悟が窺うように僕を見つめる。 「俺見てわかるのか?」 「だって。將悟、雰囲気甘いもん。順調に開発中って感じ」 「……お前くらいだろ。そんな目ざといの」  自分が他人の目にどう映ってるか、ほんとにわかってないの?  杉原も大変だ。 「かもね。自分が欲求不満だから、人のそういうのに敏感になってるみたい」  ま。今は人のことより。  視線を紫道に向ける。  目が合う。  今のイヤミ、責めてるわけじゃないけど。僕の我慢に、プラスアルファのお楽しみがほしいなぁ……って思ったり。 「え……と。なんかあったのか?」  僕たちを見やり、將悟が尋ねた。 「特にない」 「ないのが問題」  僕よりほんの少し先に答え、紫道が溜息をつく。 「昨日、うちで法事があったんだ」 「うん……?」 「だから、週末に玲史と……やるのはやめておいた。体調不良で出席出来なくなるわけにはいかなくてな」  事情を知らない將悟に説明する紫道。 「学祭後ってことにした」 「で、拗ねてるのか」  ちょっとはね。  でも。  コレはパフォーマンスなの。  ベッドに変身中の長机を、軽く叩く。 「あたりまえでしょ? 金曜日に、委員決定したのに。賭けに勝ったのに。約束したのに。何でお預け食わなきゃなんないの?」 「いや、そうだけどさ。紫道だって家の都合で仕方ないっていうか……」 「夜は空いてたし。朝には帰すし」  宥めるふうな將悟に、正当な主張を。 「もちろん、ちゃんとまっすぐ立って歩ける状態で」 「悪かった。委員決定は学祭の日だと思ってたからな」  思惑通り、紫道が口を開いた。 「もういいよ。その代わり。土曜日は覚悟して……るんだよね?」 「ああ。学祭の夜から次の日は、そのために空けてある」  邪気のないつもりの笑みを、紫道に向ける。 「僕の望み通りにしてくれる?」 「……言ったろ。聞ける要求と聞けない要求がある。聞いてからでなきゃ、うんとは言えない」  まっとうな答えかもしれないけど。  ある程度の要望は聞いてもらわなきゃ。 「じゃあ……そうだなー」  血糊用の赤い絵の具チューブを手の中で回しつつ、將悟を見やる。  どうせなら……おいしい匂いを発してるネコに、証人になってもらおう。  そんなの不要だけどさ。 「どっちかはオッケーして。將悟に意見聞いてもいいから」 「何だ?」 「縛っていいか、オモチャ使っていいか」  僕の示した2択に、紫道が將悟と目を合わせる。

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