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043 学祭を楽しもう:S

 8時過ぎに学園を出て、まっすぐ寮に帰り。飯食って早々に寝て。  学祭当日。  7時半の集合に余裕を持って起きた6時半。 『終わったらすぐ、うち行くから。お泊り準備してきてね』  寝てる間に、玲史からのメッセージが来てた。  泊まりの準備……か。  着替え一式と洗面用具。  ほかに何かあるか?  玲史のうちって、どこだ?  家族は今日、家にいないのか?  あいつのこと……ろくに知らないんだな俺。  もっと、ちゃんと。あいつを知りたいって気はあるのに。  自分から進んで深入りしないのは、やっぱり自信がないせいか。  玲史を好きだって気持ちに。情けねぇな。  それはそうと。  泊まる準備、持ってくもんはいいとして。  1日、学祭やってから行くんだから。夜、やる……としても、こっちの準備はしなくていい……だろ。  考えて、身体が熱くなる。  2年前の、康志とのセックスを思い出した。  思い出したくもねぇのに。  そこが覚えてる快楽の記憶を、俺はほかに持ってなくて。  屈辱と快感の混ざりあった嫌な記憶にすら反応する身体が嫌だ。  コレを、玲史とのもんに差し替えられるなら。  恋愛なんかじゃないとしても。望んでやるなら。  刻まれるのは、思い出してもいい記憶になる……はず。  そんなことを朝っぱらから考え、気づけば時間ギリギリになっちまった。 「おー、はよ。早いな」  飾りつけられた校門をくぐったところで。後ろから俺の肩を叩いたのは、和希だ。 「おはよう。お前も……C組は仮装屋だったか」 「そう。午前の当番だから、朝から魔術師のコスプレだぜ」 「ゲームのキャラか?」 「アニメ。詳しいやつのチョイスで、客用の衣装も流行りもん押さえてるらしい。俺はそっち方面ほとんどわかんねぇけどさ」 「俺もそのへんは疎い」  和希も俺も。部屋でパソコンや読書をするより、武術部で汗を流すほうが楽しいタイプだ。 「お前んとこ、お化け屋敷だろ? 幽霊になんの?」 「いや、ゾンビだ。ほかのバケモノはいない」 「へーいいじゃん。見に行こっかな」 「俺も午前のシフトだから午後はいないが、エスコート役もいるぞ」 「いい男いる? あの子、新庄は?」  ニヤリとする和希には悪いが……。 「新庄も午前だ」 「あー残念」  そう言う和希の表情は、大して残念そうに見えない。  前に。新庄と仲良くなりたい……みたいなこと言ってたのは、軽い気持ちなんだろう。  ノリで、俺にも『抱いていいぜ』とか言うしな。  セックスにラフなスタンスで向き合えるのは、羨ましい気もする。 「でもよ、今日は学祭。いい出会い、期待するぜ」  和希がいい笑顔を俺に向け。 「お前のアレ、どうなった? 誘われてるっての」   尋ねる瞳が輝いてる。外見に反して、色恋ネタが好きなヤツだ。 「やったか?」 「まだだ」  即答する俺を見て、和希が足を止めた。 「へぇ? これから?」 「まぁ……そうだ」  否定する意味はなし。  いずれ、玲史のことで相談するかもしれないし。 「つき合ってる。先週から。それで……」 「今日やんの?」  先に言われ、これにも頷いた。 「いいねー! 昼に盛り上がってりゃ、夜のセックスは燃えんだろ」 「和希。声……」  下げてくれ。  階段の踊り場。通りかかる数人の中に、立ち止まった俺たちに注意を向けるヤツはいないが……清々しい朝にエロトークはふさわしくない。 「やっぱ、学祭は滾るぜ。力抜いてがんばれよ。あとで報告よろしく」 「ああ……お前も」 「いけね、もう時間だ。んじゃ、また!」  階段を駆け上がってく和希の後ろ姿を目で追いながら、息をついた。口元が緩む。  他人事でも嬉しげで楽しげな和希のおかげか、さっきよりポジティブな気分だ。  学祭を楽しもう。  非日常で。  ゾンビで。  玲史との夜も、楽しもう。  これが恋でも。  そうでなくても。  玲史がほしいって気持ちは本物だ。 「おはよ、紫道(しのみち)。近いのに遅いじゃん」  朝陽を遮断した人工の灯りのゾンビ屋敷の中、俺を見た玲史が笑う。 「早く寝たんでしょ? 今夜のために、ギリギリまでたっぷり睡眠取ってきたの?」 「ああ、バッチリだ」  頷く俺に、玲史が目を細める。 「期待してて。めいっぱいかわいがってあげるから」  ためらいは一瞬。  もう一度、ゆっくりと頷いた。 「待たせた分、俺も……期待に応えられるように努力する」  唇の端を上げる俺の瞳も、玲史と同じ欲望を秘めてるはず。  解放されるのを待つばかりのソレ。夜まであと11時間くらいか。  また熱くなりそうな身体を抑えるように、頭を振って深呼吸した。  まずは学祭。  ゾンビ役をがんばろう。

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