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044 エロだろ、コレは…!:S
女の『キャーッ』って声は、謎な響きだ。
驚いてるのか。
怖がってるのか。
喜んでるのか……イマイチわからない。
「すごい声」
走り去る女子2人に背を向け。仕掛けのベッドに戻りながら、玲史が言う。
「やっぱり、女の子のほうが反応いいね」
「そうだな」
男は基本、ガチでビビった時しか大声を上げない。だから、驚いたり怯まれたりすると満足感がアップする。
ベッドに上がり、次の客に備えて横になった。
「血まみれメイク、似合うよ」
玲史が微笑む。
「お前も……よく似合ってるぞ」
本心だ。
赤いシミつきの破けたシャツを着て、目の隈とかじられた傷メイクをした玲史は……無表情なら、まさしくゾンビなんだが。
笑うと。
人を惑わす妖しい魔物にしか見えない……!
「そそる?」
薄闇に慣れた俺の目は、玲史の瞳に光る欲を見る。
正直、目の前の玲史にドキリとした。
整った顔が血糊とシャドウで汚れて、凄みを増して。キレイだと……思っちまう。ゾクッとしちまう。
この魔物に食われたくなっちまう!
「少しは……な」
ちっともそそらない、なんて言っても……玲史には見透かされるだろう。
表情から人の思考を読むのが上手い男だし。
この類の感情を、俺の顔は上手く隠せないからな。
「楽しいね」
本当に楽しそうな玲史を見てると、俺も楽しくなる。
「ああ、そ……ッ」
そうだなって続けようとした声が出せなかった。口を、玲史の唇で塞がれて。
「キスしたい。させて」
至近距離のまま、玲史が囁く。
「だ……めに決まってるだろ。客が、来る」
入場のタイミングは受付がコントロールすることになってるが、中で進む速度は客によって違う。今はひと組ずつ来る、ちょうどいいペースだ。
けど。混んできたら、切れ目なく客が通るくらいになるかもしれない。
「10秒だけ」
「長い……」
いや。
していい場所でなら長くはない、短いか……って。
そういう問題じゃねぇ!
「じゃあ、5秒」
反論する前に、玲史が唇を重ねてきた。すぐに差し込まれた舌が、上顎を這う。
「ん……ッ、は……」
久しぶりのキスは……1週間しか経っちゃいねぇが、刺激が強く。
この暗がり。ゾンビメイク。学園内の、客がそのへんうろついてるお化け屋敷の中って状況もあって。
嫌でも過敏に……興奮しちまう……!
舌を吸われ絡められ。理性を働かせる間もなく、自分も玲史の口内を舐る。
ゾクゾクする快感と熱が、身体に回る……。
「ふ……続きはあとでね」
閉じてた目を開けると、満足げな玲史の顔。
もう5秒経ったのか……って。
5秒って短いだろ。今の、もっとあっただろ。いや、ピッタシか?
というか。
物足りなく感じる俺がヤバいだろ。
玲史は理性バッチリなのに。まぁ……瞳の熱は消えてないが、周りは見えてる目だ。その目が、長テーブルベッドの頭側の壁に設置されたミラーを見る。
「將悟 が女の子2人エスコートしてる」
近づいてくる客との間合いを測るためのミラーで、曲がり角に人影が現れるのがわかり。5、6メートルくらいのところのライトの前を通る時に、顔も判別出来る。
「あれ、彼女だよ。見たことあるもん。あ、元カノか」
玲史の視線が俺に戻る。
「やるよね、將悟。思ってたよりメンタルがタフ」
「……俺は臆病者だからな。人前でキス、とか……カンベンしてくれ」
何をもって將悟のメンタルがタフだと言ってるのか。軽く痺れた頭じゃわからないが、自分のそれがタフじゃないってのはわかってる。
「臆病には見えないけど。メンタルも弱くないはず……試してあげる」
「は……?」
不穏な空気に身体を起こそうとするも、遅かった。
「う……やめ、ろ……」
玲史が俺の首筋に口をつけ。ねっとりと舐めてから吸いついた。
緩く。チュッと吸って舌を這わせ、またチュウっと吸う……少し強めに。
「ん……っ……!」
ただの皮膚なのに、なんで首のとこは感じるんだ……!?
さっきまで、噛みつくフリされてた時も。ちょっと唇触れてゾワってしたが、一瞬だった。
そもそも。仕掛け上のゾンビの演出として、だったしな。
けど。
エロだろ、コレは…!
学園で。教室で。学祭中のお化け屋敷で。
すぐそこに客がいるんだぞ!?
学部の人間じゃなく、うちの生徒で。クラスメイトで。
友達の將悟と、その連れの女子2人……だとしても。
気づかれたらマズい。気マズい。
「玲史……や、め……う……っ……ッ……!」
やめないどころか。
開いたシャツの胸元に、玲史の手がスルリと入ってきた。咄嗟に、その手を掴むも……どかせない。
開いてる右手で、玲史の身体を押しやろうとするも……どかせない。
せめて声は出さないように、歯を食いしばるしかない。
首を舐めるのをやめた玲史が身体を起こし、俺と目を合わせる。
「少し痛くしていい?」
答えを待つことなく、すぐにまた身を屈めた玲史の舌の感触が首筋に……。
「うッあッ……ツ……!」
いきなりの痛みに。
堪えるのを忘れ、声を上げた。
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