47 / 167

047 ちゃんと楽しめてる?:R

 今夜、抱く予定の男……つき合ってるから、彼氏か。  その、僕の男。紫道(しのみち)は今、縛りつけられた両手を握りしめて声を殺してる。 「ん……っ……くッ……」  声出してって言ったのに。  ガマンする必要、ないのに。  耳たぶを舐めてから、中に舌を突き入れる。  舌先を小刻みに動かしながら、ついでに……破れたシャツの間から手を這わせ、乳首をフニフニつまむ。  舐めて咬むだけ、キスはしないって言ったけど。  このくらいいいよね? ここ、気持ちよさげだもん。  同時に2ヶ所攻めたほうが、愛撫は感じる……そう。  ちょっと早いけど。  コレは前戯だから。夜のセックスのための、ね。 「う……あッ……は……や、め……ッ……」  耳の下から首の横を、舌で軽くつつきながら鎖骨まで舐ると。紫道が声を上げた。  堪えられず漏れる声。  ゾンビに似つかわしくない、甘い声。  そろそろ、聞こえるとこまで来たかな?  ミラーで確認。  うん。ちょうどいい。  紫道の声で、僕たちがおアソビしてるのがわかる距離。  後ろを振り返る。 「あの人、ゾンビなの? 吸血鬼?」 「人食う悪魔かもねー」  9歳か10歳くらいの弟に答える(かい)と戸惑い気味の將悟(そうご)に、うっすら微笑んで見せた。 「何楽しんでんの。俺にも食わして」  僕への凱の言葉に、無言で首を横に振る。  独占欲っていうのは、今まであったことないんだけど。複数プレイは好きじゃない。  僕の攻めで泣いて。  僕の攻めで快楽に堕ちて。  僕だけをほしがる。  だからこそ、興奮するの。  凱はバイでリバだし。興味はあるから、抱いてみたいとは思う……でも。  紫道を味見させるのはダメ……!  凱たちに背を向けて。 「凱と將悟、すぐそこにいるよ。いい声でサービスしてね」  紫道に囁いて。 「れい……」  しっとりした首筋をペロリと舐めて。  咬みついた。強めに。 「ん……いッ……つ、あッくッ……!」  痛みで、大きな声で呻く紫道だけど。  程よい力加減で乳首も捏ねて、快感も与えてるから……。  咬んだとこをやさしく舐めて吸いながら、紫道の股間を撫でた。  ん。よしよし。ちょっと勃ってるじゃん。  あ。血の味……少し深くしちゃったかな?  でも、気持ちいい?  ちゃんと楽しめてる? 「子どもが見てるから、そこまで。楽しむより仕事してねー」  凱の声。  始めたばっかなのに……ここまで、か。  合わせた紫道の潤んだ瞳にチュッと唇をつけ、上体を起こし。  さてと。仕事仕事。  ニヤリ顔の凱と微かに眉を寄せる將悟を避けて、弟くんと女の子のほうへ。 「逃げろ、(れつ)。捕まんなよ」  凱に向けて苦笑いをした弟くんに、無言でフラリと歩み寄る。  一緒にいる女の子、美人さんだ。同じか、ひとつ2つ下かな?  んーでも。この子、妙に大人びてない?  僕をまっすぐに見る目を細め、ゆったりと笑みを浮かべた美人さんの手を引く弟くん。  急がず。ゾンビっぽく。ルート通り、ゴールに向かって逃げ出した2人を追う。  紫道が縛られてるの見て、凱と將悟はどう思ったかな……ていうか。  縛られてるとこ見られて、紫道はどうかな?  声も聞かれたし。  恥ずかしいって感情、あるなら。  羞恥プレイに目覚めてくれるかも……。  わざと頼りない足取りで、角を曲がると。 「来た! 握手して!」  待ちかまえてたっぽい弟くんに、笑顔で手を差し出された。  唇の端だけ上げて。ご要望に応えて、小さめの手を握る。あったかい。 「凱の友達?」  聞かれて、頷く。 「その髪、かわいい。染めてるの?」  頷く。  もともと茶色がかった髪を、カラーリングで明るい栗色にしてるし。猫っ毛気味なのを軽くウェーブかけてるけど。  かわいい……って。  明らかに小学生の子に言われると、変な感じ。  きみのほうがかわいいよって言いたい。  でも。  ゾンビだから。 「ねぇ、どうして悪魔になったの?」  え。  悪魔……じゃなくて、ゾンビで。  学祭で、うちのクラスはお化け屋敷やってて。  ゾンビ役だから。  喋らず、首を横に振る。 「悪魔かもって凱が言ったから。寝てた人、大丈夫?」  頷く。  この弟くん、すごくフレンドリー……知らない歳上のゾンビ姿の男に、物怖じしなくて。  好奇心旺盛なのかな?  ゾンビ好き?  同じ年頃の、よく知ってる子を思い出させる。よけいな記憶も……。 「痛そうだったよ?」  うん。痛くしたんだもん。  それが気持ちイイこともある……なんて、言うのよくないよね。 「ゾンビさんは話せないんだから、困らせないの」  そばで聞いてた美人さんが、口を挟んでくれる。  そして、僕に。 「凱と仲良くしてくれてありがとう。これからも、あの子をよろしくね」  ニッコリして言った。  彼女……?  なんか。お母さんみたいだなぁ。 「お、逃げてねーの」  凱が来た。 「ヒントは將悟が取って来るから。先行こーぜ」 「バイバイ」  手を振って、弟くんと美人さんがルートを先へ。 「紫道、將悟が解放するってさー」 「せっかくだから楽しまないと。紫道も、それなりに……嫌がってはないはずだし」  立場はお客だけど。もう、凱には普通に喋っていいや。 「だろーね。嫌なら、お前蹴り飛ばして起き上がれんだろ」 「でしょ。見込んだ通り」  夜が楽しみで、自然に頬が緩む。 「へーほんとにマジなんだな。いいじゃん?」  からかうでもなく、純粋に喜ばしいってふうな凱の言葉と瞳。  マジ……つき合いが?  ワクワクする、この気持ちが?  コレがレンアイ……?  確かに、イイ……この感じ。 「うん。遊びより満たされるね」 「やり過ぎんなよ」  笑って、凱が去る。  自信……ないかも。  たかがセックスに、何を期待してるんだろう。  いつもの興奮。  いつもの快楽。  ほかに何があるの。  わからない、けど。  いつも以上に何かを期待してる自分を、ちゃんと抑えなきゃ。  恋人は、大切にするもの……らしいからね。

ともだちにシェアしよう!