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047 ちゃんと楽しめてる?:R
今夜、抱く予定の男……つき合ってるから、彼氏か。
その、僕の男。紫道 は今、縛りつけられた両手を握りしめて声を殺してる。
「ん……っ……くッ……」
声出してって言ったのに。
ガマンする必要、ないのに。
耳たぶを舐めてから、中に舌を突き入れる。
舌先を小刻みに動かしながら、ついでに……破れたシャツの間から手を這わせ、乳首をフニフニつまむ。
舐めて咬むだけ、キスはしないって言ったけど。
このくらいいいよね? ここ、気持ちよさげだもん。
同時に2ヶ所攻めたほうが、愛撫は感じる……そう。
ちょっと早いけど。
コレは前戯だから。夜のセックスのための、ね。
「う……あッ……は……や、め……ッ……」
耳の下から首の横を、舌で軽くつつきながら鎖骨まで舐ると。紫道が声を上げた。
堪えられず漏れる声。
ゾンビに似つかわしくない、甘い声。
そろそろ、聞こえるとこまで来たかな?
ミラーで確認。
うん。ちょうどいい。
紫道の声で、僕たちがおアソビしてるのがわかる距離。
後ろを振り返る。
「あの人、ゾンビなの? 吸血鬼?」
「人食う悪魔かもねー」
9歳か10歳くらいの弟に答える凱 と戸惑い気味の將悟 に、うっすら微笑んで見せた。
「何楽しんでんの。俺にも食わして」
僕への凱の言葉に、無言で首を横に振る。
独占欲っていうのは、今まであったことないんだけど。複数プレイは好きじゃない。
僕の攻めで泣いて。
僕の攻めで快楽に堕ちて。
僕だけをほしがる。
だからこそ、興奮するの。
凱はバイでリバだし。興味はあるから、抱いてみたいとは思う……でも。
紫道を味見させるのはダメ……!
凱たちに背を向けて。
「凱と將悟、すぐそこにいるよ。いい声でサービスしてね」
紫道に囁いて。
「れい……」
しっとりした首筋をペロリと舐めて。
咬みついた。強めに。
「ん……いッ……つ、あッくッ……!」
痛みで、大きな声で呻く紫道だけど。
程よい力加減で乳首も捏ねて、快感も与えてるから……。
咬んだとこをやさしく舐めて吸いながら、紫道の股間を撫でた。
ん。よしよし。ちょっと勃ってるじゃん。
あ。血の味……少し深くしちゃったかな?
でも、気持ちいい?
ちゃんと楽しめてる?
「子どもが見てるから、そこまで。楽しむより仕事してねー」
凱の声。
始めたばっかなのに……ここまで、か。
合わせた紫道の潤んだ瞳にチュッと唇をつけ、上体を起こし。
さてと。仕事仕事。
ニヤリ顔の凱と微かに眉を寄せる將悟を避けて、弟くんと女の子のほうへ。
「逃げろ、烈 。捕まんなよ」
凱に向けて苦笑いをした弟くんに、無言でフラリと歩み寄る。
一緒にいる女の子、美人さんだ。同じか、ひとつ2つ下かな?
んーでも。この子、妙に大人びてない?
僕をまっすぐに見る目を細め、ゆったりと笑みを浮かべた美人さんの手を引く弟くん。
急がず。ゾンビっぽく。ルート通り、ゴールに向かって逃げ出した2人を追う。
紫道が縛られてるの見て、凱と將悟はどう思ったかな……ていうか。
縛られてるとこ見られて、紫道はどうかな?
声も聞かれたし。
恥ずかしいって感情、あるなら。
羞恥プレイに目覚めてくれるかも……。
わざと頼りない足取りで、角を曲がると。
「来た! 握手して!」
待ちかまえてたっぽい弟くんに、笑顔で手を差し出された。
唇の端だけ上げて。ご要望に応えて、小さめの手を握る。あったかい。
「凱の友達?」
聞かれて、頷く。
「その髪、かわいい。染めてるの?」
頷く。
もともと茶色がかった髪を、カラーリングで明るい栗色にしてるし。猫っ毛気味なのを軽くウェーブかけてるけど。
かわいい……って。
明らかに小学生の子に言われると、変な感じ。
きみのほうがかわいいよって言いたい。
でも。
ゾンビだから。
「ねぇ、どうして悪魔になったの?」
え。
悪魔……じゃなくて、ゾンビで。
学祭で、うちのクラスはお化け屋敷やってて。
ゾンビ役だから。
喋らず、首を横に振る。
「悪魔かもって凱が言ったから。寝てた人、大丈夫?」
頷く。
この弟くん、すごくフレンドリー……知らない歳上のゾンビ姿の男に、物怖じしなくて。
好奇心旺盛なのかな?
ゾンビ好き?
同じ年頃の、よく知ってる子を思い出させる。よけいな記憶も……。
「痛そうだったよ?」
うん。痛くしたんだもん。
それが気持ちイイこともある……なんて、言うのよくないよね。
「ゾンビさんは話せないんだから、困らせないの」
そばで聞いてた美人さんが、口を挟んでくれる。
そして、僕に。
「凱と仲良くしてくれてありがとう。これからも、あの子をよろしくね」
ニッコリして言った。
彼女……?
なんか。お母さんみたいだなぁ。
「お、逃げてねーの」
凱が来た。
「ヒントは將悟が取って来るから。先行こーぜ」
「バイバイ」
手を振って、弟くんと美人さんがルートを先へ。
「紫道、將悟が解放するってさー」
「せっかくだから楽しまないと。紫道も、それなりに……嫌がってはないはずだし」
立場はお客だけど。もう、凱には普通に喋っていいや。
「だろーね。嫌なら、お前蹴り飛ばして起き上がれんだろ」
「でしょ。見込んだ通り」
夜が楽しみで、自然に頬が緩む。
「へーほんとにマジなんだな。いいじゃん?」
からかうでもなく、純粋に喜ばしいってふうな凱の言葉と瞳。
マジ……つき合いが?
ワクワクする、この気持ちが?
コレがレンアイ……?
確かに、イイ……この感じ。
「うん。遊びより満たされるね」
「やり過ぎんなよ」
笑って、凱が去る。
自信……ないかも。
たかがセックスに、何を期待してるんだろう。
いつもの興奮。
いつもの快楽。
ほかに何があるの。
わからない、けど。
いつも以上に何かを期待してる自分を、ちゃんと抑えなきゃ。
恋人は、大切にするもの……らしいからね。
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