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048 僕に恋する理由、ないでしょ:R
「紫道 の首。血、出てたぞ。学校で変なプレイするな……ってか、どんなのもやめろ」
仕掛けの手前の角で。凱たちを追う將悟 とすれ違いざま、言われた。
「ハイハイ」
素直に聞いたのに。
「玲史」
呼ばれ。足を止め、振り返る。
「夜まではもう、何もしないって」
足りないくらいがちょうどいいの。
ほんのちょっぴりの快感が、火種になって身体に残って……待ちきれなくて焦れてくれるように。
期待に笑みをもらす僕を見て、將悟が溜息をついた。
「ほんとに。少しはセーブしろよ。あ……その、今夜……」
「そっちこそ。杉原にハメ外させないようにね」
「涼弥は……俺のほうは、大丈夫……」
自分で言い出したくせに照れる將悟。
からかっていじめたくなるけど、今は時間ないから……。
「そうだ。紫道の手、解いてくれたの?」
「あ……うん。お前、あれ……」
「無理にじゃないよ。合意の上」
「……ソレ。お前がやりたいっつえば、オーケーしちゃうだろうからさ。そのSM系の、ソレをセーブしろ。紫道は……特にマゾってわけでもなさそうじゃん?」
將悟にはそう見えるのか。
でも。
人には属性があって。
紫道はMなの。絶対!
まぁ、みんな両方の要素はあって。中にはどっちかに極振りされてる人間がいるってだけ。
僕がSみたいに。
紫道はM寄り。それは確実。
今はまだほんのり、だとしてもね。問題なし。
僕が丹念に開発して、どっぷりMにしてあげるから。
「わかってる。ちょっとずつやるし。嫌がることはしないつもりだし」
最初は抵抗あっても。自分じゃ気づいてない快感のモト、教え込んで……あ。
「ねぇ。僕がやりたいって言えばオーケーしちゃうって、何で? 紫道は、嫌なことは嫌って言えるでしょ」
「そうだけどさ。好きなヤツの望みは……出来る限り聞いてやりたくなるもんだろ」
「え……?」
好きな……って。
しかも。
またソレ?
好きなら何でもしてあげたいとかの、キレイゴト。
將悟はリアルで思えてそう……。
「お前は、焦らしたりいじめたりしたくなるのかもしんないけど」
苦笑いする將悟。
紫道がひとりで驚かせてるのか。角の向こうから、キャーっていう女子の声。
「残りあとちょっと、ゾンビがんばれよ。仲良くな」
「うん……きみもがんばって」
ルートの先へ行く將悟とは逆へ。仕掛けに戻りつつ、モヤモヤ。
好きなヤツって。
將悟は恋愛の意味で言ったよね。そこ、引っかかる。
だってさ。
長い間、誘っても全然のってこなかった紫道が。先月、ついにオッケー……どういう心境の変化なのか。
セックスすること、じゃなく。つき合う、だからオッケー?
でも。
それってタテマエじゃないの?
やりたいから、恋人同士って関係になる。
少なくとも。僕はそう。
遊びではしないっていう紫道だから。
どうしても抱きたいんだもん。
恋愛してる子たち、いろいろ面倒そうじゃん。いちいち落ち込んだり舞い上がったり、怒ったり喜んだり。
身体の快楽に、心なんか混ぜるからでしょ?
セックスは、気持ちイイのが正義。そのために心理的要素も使う……SMプレイには外せない欠かせない。
つき合ってるのはプレイのうち。
コレは恋だって。
その設定が必要だったんだよ……紫道も。
何故かわからないけど、僕に抱かれてみたくなった。
SMに興味が湧いた。
純粋にセックスしたくなった……けど。
身体だけの関係は嫌。好きでもない男に抱かれて感じる身体が嫌。だから、ちゃんと恋人と……そんなとこ?
紫道が僕に恋する理由、ないでしょ。
でも。それでいいの。
確かに、紫道のことは好き。
去年初めて見た時、超好みの男だと思ったし。
話すようになって、見た目だけじゃなくいいヤツだってわかったし。
多くはいない友達として、前から好きだし。
そして。
ほしいなぁって思い続けるの、初だし。
やっと抱けるの、ワクワクしてるし。
思いのほか、つき合う感覚って悪くないし。
紫道はかわいいし。
過去の話、ムカついたし。
ほかの男に触られたくないし。
僕だけに欲情してほしいし。
その身体と精神、支配するの……楽しみ過ぎるし!
だから。
僕のほうは、恋……してるかもしれない。
抱けば、もっと何かハッキリわかるかもしれない。恋かどうか知りたいとも思うけど。
やっぱり。
そうじゃなきゃいい、あり得ないって気もする。
恋愛なんて、いつか消える幻……夢も希望もないモノだもん。
幻どころか。
見たいように見てるだけなんじゃない?
ホンモノだって。消えない失くならないって信じるのは、幸せな人間だけ……。
「うわ……ッ」
「きゃ……何!?」
仕掛けの手前で、駆けてきた女子2人に遭遇。
ゾンビの笑みでおもてなし。
「コワ……」
「えーウソ、かわいいじゃん!」
暗がりとゾンビ屋敷にエキサイト気味の女の子を横目に、ベッド脇に立つ紫道の元へ。
「遅くなってごめんね。ちょっと立ち話してた」
「いや……大丈夫だ」
紫道の僕を見る瞳。
もう、欲に濡れてない。熱に浮かされてもいない。
うん。幻、見てないね。
「あ……手は將悟に解いてもらった。勝手に、悪い」
その、すまなそうな顔……素なの?
僕の要望ゴリ押しして縛ったのに。
「いいよ。こっちも大丈夫? 強く咬んじゃったから」
咬み痕の残る、紫道の首の皮膚を軽く撫でた。
「ッ……ああ……何とも、ない」
目を逸した横顔が赤く染まる。
「紫道」
「……何だ?」
「僕がほしい?」
尋ねると。紫道が、ゆっくりこっちに向き直り。
「今、聞くな」
さらに顔を赤らめる。
「きみの身体、僕をほしがってる」
「玲史……」
「つき合ってるんだから。身体だけ落ちるの、もう怖くないでしょ?」
困ったふうな表情で僕を見つめ、紫道が深い息を吐く。
「そうだな……お前とやりたいのは、事実だ」
それ聞いて。安心……ていうか、気持ちが鎮まる。
欲情だけで繋がれば、よけいなバグはナシ。
シンプルに快楽だけ追える。
ほしいのは身体の快感と、サドの嗜虐心を満たすこと。
恋とか愛とか。気にしないで、楽しめばいい……よね?
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