50 / 167
050 マジ、か……:S
目の前にいるこの……清崇 って男と。チラッと目が合って、反射的に下を向いた。
玲史のセフレ……いや。元セフレ、か。
1ヶ月前……凱 が転校してきた頃まで。俺と、風紀委員になったらつき合うって賭けをする前の……。
だから、別に俺が文句いう筋合いでも何でもない。
いや。今だって、玲史がほかの男とやりたいっつーなら……止めるだけの理由を、持っちゃいない。
いや……でも。
俺だけをほしがってくれって言ったら、いいよ……って……。
あれは昨日か?
ダメだ俺。何でこんな……。
何に動揺してんだ!?
ドクドク、キリキリ……胸が、締まる……。
場の空気が静止する中。
玲史の視線を感じるが、顔を上げられない。
ちょっと落ち着かなけりゃ……。
さっき。
ゾンビの着替えの時の、玲史のセリフからこっち……不安みたいなもんが頭ん中ぐるぐるで。そこに元セフレ登場で……。
どう反応していいか、わからねぇ!
「玲史。お前さ、ちっとは気回せよ」
清崇が、短い沈黙を破る。
「サラッと言ってっけど。普通は聞きたくねぇだろ、つき合ってるヤツのセフレだ何だっての。そいつとツラ合わせんのも微妙っつーか」
確かに微妙だ。いろんな意味で。
「え……そうかな? そんな繊細な神経してないでしょ2人とも」
声にイヤミはない。玲史は、まぁ……素で平気なんだろう。
俺も平気だと思ってるか。
つき合っちゃいるが、互いに恋愛感情はまだない、はず……な上に。
まだ、やってもいないからな。
「幸汰 くんは、僕に会いにきたし。友好的だったし」
「俺は……普通じゃないから」
「自覚あるんだ」
「きみはないのか」
「僕のS嗜好は普通の範囲内だもん」
玲史と、清崇の彼氏だっていう幸汰の会話……マトモそうに見えたが、違うのか。
嗜好が玲史と同類なのか?
てことは、玲史の相手してた清崇はマゾなのか。
全然そんなふうに見えないが……。
いや。
人は見かけによらないしな。向こうだって、俺を……って。
俺はマゾじゃない。普通に、ノーマルなはず。玲史が望むなら、そういうのを……してもいい……だけだ。
こんなんで期待に添えるもんなのかってのが、気にかかる。
セフレっていうからには、玲史を満足させてたんだろうな。どのくらいの間続いて……。
「お前の普通はズレてんの」
清崇が口を挟む。
「俺と幸汰はかまわねぇけどよ。リアクションに困ってんだろ、紫道 は。なぁ?」
話を振られて。顔を上げないわけにはいかない。
視線を向けた先で。清崇が気マズそうに俺を見てて。
「悪いな。つい声かけちまって」
謝られると、さらに微妙だ。
「いや……別に、悪くは……」
全然ない。知り合いに会ったら挨拶くらいする。
玲史も、事実を言っただけ。今ここで言うのはアレだが、変にごまかされるのもな。
微妙なのは、堂々としてねぇからだ……俺が。
「玲史はいつもこんな感じ、なんで。気にしてちゃ一緒にいられないし……大丈夫です」
「おー、さすが玲史とつき合えるだけあんな」
清崇の表情がパッと明るくなる。
「あ、敬語はいんねぇから。これから仲良くしようぜ」
「は……い」
仲良く?
「紫道のこと、気に入ったの?」
玲史の問いに。
「男らしくて逞しいのに、初心な風情の好青年……いいね」
答えたのは幸汰だ。
「ダメ。貸さないよ」
「清崇とスワップで」
「おい。勝手に人を貸し出すな」
「何? 1ヶ月でもうマンネリ?」
「俺にはまだまだ未知の世界だから、日々新発見中だけど……ネトラレにも興味がある」
「僕はないかな……あ。見物人はほしい。欲望の瞳でハアハア見られながらやりたい……」
「玲史……ッ!」
黙って聞いてたが、耐えられなくなって声を上げた。
3人の視線が集まる。
う……何ていやいいんだ!?
和気あいあいの雰囲気、壊すのも気が引ける。
けど。
コイツら、みんな……ズレてないか?
セックスって、そんな気軽な行為か?
自分の認識が絶対正しいって自信はないが……ここでノーって言わなけりゃ、マズい未来が確定しちまうんじゃ……。
「紫道?」
「俺だけじゃ、満足出来ないか?」
上目遣いで俺を見つめる玲史を見つめ返し、咄嗟に口にした。
「お前にとって、俺ひとりじゃ物足りないなら……」
何だ?
つき合えないって言うつもりか!?
かといって。
仕方ない、どんなプレイでもやる……とは言えねぇ!
「きみひとりで満足」
微笑む玲史にホッとするも。
「でも……もっと刺激がほしくなった時、協力し合えるってこと。ね? 幸汰くん」
「そう。その時は、よろしく」
幸汰の笑みに、ゾクリとした。
救いを求め……清崇を見ると。
「悪いな」
再び謝られ、肩を竦められ。
「なるたけフォローするけど……ホレてっからよ。どうしてもってなりゃ、よせって言えねぇわ」
孤立無援だ。
「マジ、か……」
かろうじて呟く俺にスッと近づいて、耳元に唇を寄せる清崇。
「あいつ、玲史にいろいろ教わりたいっつってたから……やってんの見せてくれって、逆に頼むもあるぜ」
「な……」
「サドにホレちまったんだ。諦めろ」
そう言うわりに。諦めより楽しげの顔で、清崇が笑った。
マジか……。
サドにホレて……るのか俺は?
「んじゃ、行くわ。それ、飯冷めんだろ。また今度な」
「うん。またね」
「紫道くんも、ぜひ一緒に」
「ああ……」
清崇と玲史、幸汰に合わせて。ここはとりあえず頷いた。
これ以上は、俺のキャパがキツい。
「僕たちも行こ。中庭もいいけど、教室でいい?」
2人の後ろ姿から、玲史へと視線を移す。
コイツとつき合ってるんだ。
ホレても……恋愛感情で好きになっても、問題はない。むしろ、そのほうが自然だ。
セックスするのも、恋人同士になったからで……。
ドクンと。
血流が速まる。
「どうしたの? ほら」
返事をしない俺の腕に絡む玲史の体温に、熱くなる。
エロ要素ゼロで。ただ、玲史を見てドキドキするとか……。
マジ、か……。
ともだちにシェアしよう!