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050 マジ、か……:S

 目の前にいるこの……清崇(きよたか)って男と。チラッと目が合って、反射的に下を向いた。  玲史のセフレ……いや。元セフレ、か。  1ヶ月前……(かい)が転校してきた頃まで。俺と、風紀委員になったらつき合うって賭けをする前の……。  だから、別に俺が文句いう筋合いでも何でもない。  いや。今だって、玲史がほかの男とやりたいっつーなら……止めるだけの理由を、持っちゃいない。  いや……でも。  俺だけをほしがってくれって言ったら、いいよ……って……。  あれは昨日か?  ダメだ俺。何でこんな……。  何に動揺してんだ!?  ドクドク、キリキリ……胸が、締まる……。  場の空気が静止する中。  玲史の視線を感じるが、顔を上げられない。  ちょっと落ち着かなけりゃ……。  さっき。  ゾンビの着替えの時の、玲史のセリフからこっち……不安みたいなもんが頭ん中ぐるぐるで。そこに元セフレ登場で……。  どう反応していいか、わからねぇ! 「玲史。お前さ、ちっとは気回せよ」  清崇が、短い沈黙を破る。 「サラッと言ってっけど。普通は聞きたくねぇだろ、つき合ってるヤツのセフレだ何だっての。そいつとツラ合わせんのも微妙っつーか」  確かに微妙だ。いろんな意味で。   「え……そうかな? そんな繊細な神経してないでしょ2人とも」  声にイヤミはない。玲史は、まぁ……素で平気なんだろう。  俺も平気だと思ってるか。  つき合っちゃいるが、互いに恋愛感情はまだない、はず……な上に。  まだ、やってもいないからな。 「幸汰(こうた)くんは、僕に会いにきたし。友好的だったし」 「俺は……普通じゃないから」 「自覚あるんだ」 「きみはないのか」 「僕のS嗜好は普通の範囲内だもん」  玲史と、清崇の彼氏だっていう幸汰の会話……マトモそうに見えたが、違うのか。  嗜好が玲史と同類なのか?  てことは、玲史の相手してた清崇はマゾなのか。  全然そんなふうに見えないが……。  いや。  人は見かけによらないしな。向こうだって、俺を……って。  俺はマゾじゃない。普通に、ノーマルなはず。玲史が望むなら、そういうのを……してもいい……だけだ。  こんなんで期待に添えるもんなのかってのが、気にかかる。  セフレっていうからには、玲史を満足させてたんだろうな。どのくらいの間続いて……。 「お前の普通はズレてんの」  清崇が口を挟む。 「俺と幸汰はかまわねぇけどよ。リアクションに困ってんだろ、紫道(しのみち)は。なぁ?」  話を振られて。顔を上げないわけにはいかない。  視線を向けた先で。清崇が気マズそうに俺を見てて。 「悪いな。つい声かけちまって」  謝られると、さらに微妙だ。 「いや……別に、悪くは……」  全然ない。知り合いに会ったら挨拶くらいする。  玲史も、事実を言っただけ。今ここで言うのはアレだが、変にごまかされるのもな。  微妙なのは、堂々としてねぇからだ……俺が。 「玲史はいつもこんな感じ、なんで。気にしてちゃ一緒にいられないし……大丈夫です」 「おー、さすが玲史とつき合えるだけあんな」  清崇の表情がパッと明るくなる。 「あ、敬語はいんねぇから。これから仲良くしようぜ」 「は……い」  仲良く? 「紫道のこと、気に入ったの?」  玲史の問いに。 「男らしくて逞しいのに、初心な風情の好青年……いいね」  答えたのは幸汰だ。 「ダメ。貸さないよ」 「清崇とスワップで」 「おい。勝手に人を貸し出すな」 「何? 1ヶ月でもうマンネリ?」 「俺にはまだまだ未知の世界だから、日々新発見中だけど……ネトラレにも興味がある」 「僕はないかな……あ。見物人はほしい。欲望の瞳でハアハア見られながらやりたい……」 「玲史……ッ!」  黙って聞いてたが、耐えられなくなって声を上げた。  3人の視線が集まる。  う……何ていやいいんだ!?  和気あいあいの雰囲気、壊すのも気が引ける。  けど。  コイツら、みんな……ズレてないか?  セックスって、そんな気軽な行為か?  自分の認識が絶対正しいって自信はないが……ここでノーって言わなけりゃ、マズい未来が確定しちまうんじゃ……。 「紫道?」 「俺だけじゃ、満足出来ないか?」  上目遣いで俺を見つめる玲史を見つめ返し、咄嗟に口にした。 「お前にとって、俺ひとりじゃ物足りないなら……」  何だ?  つき合えないって言うつもりか!?  かといって。  仕方ない、どんなプレイでもやる……とは言えねぇ! 「きみひとりで満足」  微笑む玲史にホッとするも。 「でも……もっと刺激がほしくなった時、協力し合えるってこと。ね? 幸汰くん」 「そう。その時は、よろしく」  幸汰の笑みに、ゾクリとした。  救いを求め……清崇を見ると。 「悪いな」  再び謝られ、肩を竦められ。 「なるたけフォローするけど……ホレてっからよ。どうしてもってなりゃ、よせって言えねぇわ」  孤立無援だ。 「マジ、か……」  かろうじて呟く俺にスッと近づいて、耳元に唇を寄せる清崇。 「あいつ、玲史にいろいろ教わりたいっつってたから……やってんの見せてくれって、逆に頼むもあるぜ」 「な……」 「サドにホレちまったんだ。諦めろ」  そう言うわりに。諦めより楽しげの顔で、清崇が笑った。    マジか……。  サドにホレて……るのか俺は? 「んじゃ、行くわ。それ、飯冷めんだろ。また今度な」 「うん。またね」 「紫道くんも、ぜひ一緒に」 「ああ……」  清崇と玲史、幸汰に合わせて。ここはとりあえず頷いた。  これ以上は、俺のキャパがキツい。 「僕たちも行こ。中庭もいいけど、教室でいい?」  2人の後ろ姿から、玲史へと視線を移す。  コイツとつき合ってるんだ。  ホレても……恋愛感情で好きになっても、問題はない。むしろ、そのほうが自然だ。  セックスするのも、恋人同士になったからで……。  ドクンと。  血流が速まる。 「どうしたの? ほら」  返事をしない俺の腕に絡む玲史の体温に、熱くなる。  エロ要素ゼロで。ただ、玲史を見てドキドキするとか……。  マジ、か……。

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