51 / 167

051 人、いるぞ!:S

「あーおいしかった。おなかいっぱい。きみは足りた?」 「ああ……3つも食ったからな」  玲史に聞かれ頷くも、落ち着かない。  2-Bの教室のベランダで。空は青くいい天気で。  うちの教師の屋台で買った焼きそば3パックを、ほぼ一気食いした。  空腹と、玲史の元セフレとその彼氏とのひと時で疲弊した精神を回復すべく。うまかったが、味わうってより……とにかく腹を満たした。  俺と違ってガツガツって感じじゃなく優雅に、玲史も2パックの焼きそばをペロリと平らげた。  そして。  風紀の見回り当番まで30分ちょい。3-Bがやってるカジノに寄っていこうと、ペットボトルのコーラも飲み干して。  立ち上がったところ。 「ごめん。清崇(きよたか)たちと話し込んじゃったから、時間あんまりないね」  それは全く。全然かまわないんだが……今はそれより。 「カジノの生徒会役員ベット、当てる自信あるよ」  窓ガラス越しに教室内へと向けた視線を外さずに、玲史が笑みを浮かべる。 「せっかくだから賭けて遊びたい」 「……そう、だな」  落ち着かないというか。何か居心地が悪いというか。ここにいるのが気マズいというか。  その原因に、ためらいつつ目をやった。  教室の中。廊下への閉まったドアのすぐ横。  クラスメイトの月島(つきしま)と、D組の三笠(みかさ)がキス…してる。ガッツリ濃いやつを。  人目をはばからず。  いや。  教室には、ほかに誰もいない。  ベランダで腰を下ろしてた俺と玲史に、気づかなかったのも無理はない。  人目はない……と思ってるんだろう。  ちょうど飯を食い終えて行こうとしてた俺たちが、入ってくるなりの月島の告白の声を聞いて。立ち上がった時には、すでに……で。  この場を去るタイミングを逃した。  かといって。  イチャつき終わるのを待ってはいられない。  時間もないし。  見物するのも悪いし。  俺たちに見られてるの知らずに、さらに盛り上がられちまったら……困る。  さすがに、ここじゃ。キス以上のことはしない、とは思うが……。 「もっと見てたい?」 「は!? いや、ない」  からかい口調の玲史に即答する。 「ただ、今入ってくのは気が引ける、つーか……アイツらも気マズいだろ」 「見られるリスク込みでああしてるんでしょ」  そりゃそうかもしれないが。 「まぁ、告ってうまくいったみたいだからさ。風紀委員だけど、特別に見逃してあげよ」  ゾンビ役の時の自分を棚に上げ、寛大ぶる玲史。 「ああ」  よけいなことはツッコまず。静かにベランダから中へ。  机の横を回り。月島たちがいる後ろのドアじゃなく、前のドアに向かう。  未だ盛り中の2人は 周囲への警戒心ゼロらしく。このまま気づかれず、廊下に出れそうだ……と思いきや。 「ダメ、だ……もう……」 「いいぜ。イカせてやる」 「や……人が……」 「来ねぇよ……んなの、気にすんな……」  聞こえた会話に足を止める。  人、いるぞ! それは気にしろ……!  振り返った玲史が、問うように無言で首を傾げた。  邪魔したくはなかったが、人目があっても続けるっていうなら……そりゃダメだろ。  マナー的に。  学園の風紀的に。  あとは……俺的に。 「あ……月島」  俺の声に。バッと三笠から離れた月島が、驚いた顔を向ける。 「川北!? 高畑も……え、いつから……!?」 「ベランダにいた。その……ここで、そういうことは……やめろ」  く……言ってる自分が堂々としてねぇ。  後ろめたいヤツが何言っても、説得力がねぇ。 「見逃してあげたかったんだけど。僕たち風紀だから。いくら同意の上でも、教室で出すのはアウト。ちんぽも精液もね」  微笑む玲史を見て、月島が溜息をつく。 「わかってる。ちょっと……調子に乗りすぎた。悪かった、三笠」 「謝るなよ。俺は……」  頬を染めた三笠が言葉を濁し。 「見られると興奮しちゃう? きみがイクとこ、僕も見たかったなぁ」  玲史の言葉でさらに顔を赤くした。 「何……だソレ。変態だろ……ってか。お前、まさかコイツ狙ってんのか!?」  代わりに、月島が声を上げる。 「狙ってるわけないじゃん。僕には紫道がいるもん」 「は……? 川北? マジで? お前タチだっつってたくせに……」 「そうだよ。僕が抱くの。きみこそ、ちゃんと男抱ける? 確かノンケだったでしょ?」 「な、そ……んなの問題ねぇ。好きんなっちまったんだ。出来ねぇことあるか!」 「ふうん? じゃあ、僕たちは行くけど。エロはあと半日ガマンしてね」  熱くなる月島にアッサリ返し。さっさとドアを開け、玲史が出ていった。  物言いたげな2人の視線が俺に刺さる。  早く、退散したい。 「続きは学祭終わってから、やりたいだけ…… 」  何か言わなけりゃと思って口にして。玲史との今夜の予定が頭に過り、後悔する。  せっかく抑えてた欲を、身体が思い出す。  疼くな……! あと半日くらい、余裕で待てるだろ……!  自分に言い聞かせ。 「とにかく、ここではやるな」  月島たちが口を開く前に教室から出て、ドアを閉めた。 「紫道」  当然のように腕を組んできて、玲史が囁く。 「僕たちも。もう少しガマンして……今夜、やりたいだけやろうね」  また。飯を食う前より熱くなる。ドキドキする。これが恋でも性欲でも……ほしいモノは同じだ。  玲史がほしい。

ともだちにシェアしよう!