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053 ほしい? スリル:R

 カジノの生徒会役員ベットの申し込み用紙を見て、笑みが漏れた。  高校の学祭での、カジノっていう名のゲーム場。ベットっていう名の予想ゲーム……ギャンブルはマズいのかな、やっぱり。 『賭けるのは金でも菓子でもなく、きみの考察。あるいは、インスピレーションだ。得るのは満足感。そして、ブルーファルコンからの豪華でささやかなプレゼント……Let’s Bet!』  用紙の上部に書かれてる文言。  さらに。 『ひとり1口。ひとり1ベットのみ』  そういえば、オッズ表ないもんね。選挙の候補者一覧は貼り出してあるけど。   本命に大賭けとか、大穴狙いとかナシ……なんて健全な。  でも。  せっかくだから、勝ちにいこう。  ベットは3種類。  生徒会長を当てる、1人ベット。  生徒会長と副会長を当てる、2人ベット。  フル生徒会役員を当てる、5人ベット。  まずはココ。5人ベットを選択してチェックを入れる。  次。候補者12人の名前がズラッと並んでる中から、5人チョイス。チェック。  1分で記入完了。 「もう終わったのか?」  隣で、まだ廊下の壁に用紙をあてたままの紫道(しのみち)がこっちを向いた。 「迷うとこないもん。きみは? 5人、決めてあったんじゃないの?」 「……ひとり、誰に変えるか迷ってる。藤村は当選しないほうがいいと思ってよ」  2-Cの藤村が入ってる……てことは、紫道の読みも僕と同じかな。  やる気満々で立候補したヤツだし。ゲイだし。ノリが軽くてチャラいけど、選挙活動でのウケもよかったし。藤村は当選するはず。  なのに。 「將悟(そうご)にちょっかい出してるから?」 「ああ。涼弥の気に障るだろ」  將悟と杉原は、見て聞いてる限りでは不安要素ゼロカップルなんだけど。將悟のことになると、杉原は心配が過ぎるみたいで。傍観者としてはおもしろい。  それに……。 「障ったっていいじゃん。アクシデントとかトラブルとか、障害があっても壊れないんでしょ? ホントの愛ってやつなら」  ソレがホントにあるんだったらね。  何か言いたげな紫道が、僕を見つめる……けど。  今、マジで時間ないし。  恋愛経験ナシの僕たちに、愛なんてモノの正体がわかるはずもないし。 「気にしないで藤村にしなよ。きみがどう思っても、結果は変わらないの。役員やりたくないっていう將悟のために、ベットから外した?」 「いや……」  バツの悪そうな紫道に微笑む。 「このベット。うちの生徒にとっては、確かにギャンブルじゃないよね。運とか偶然とかの要素ないもん」 「賭けゴトにしちゃ、スリルがないな。まぁ……気が楽だが」 「ほしい? スリル。当たったらじゃなくて、ハズレた場合のペナルティ……賭ける?」  今考えたこの提案に、迷いなく首を横に振る紫道。 「あ。やっぱり、ご褒美がないとつまらない?」 「その前に……俺が外してお前が喜ぶ賭けは出来ないだろ」 「何で?」 「……なんとなく、だ。期待してるとこ……当てにくい。逆もムリだ。お前へのペナルティは思いつかないからな」 「残念」  ほんの少しだけ。  どうせ、2人ともアタリだもんね。  書き終えたベット申し込み用紙を鈴屋に頼み。風紀見回りの集合場所、昇降口へと走り。  カジノは昇降口に近いところだから余裕って思ってベットしに行ってたけど……着いたのは、集合時間の1分前でギリだった。  2時半から4時までの見回り当番。  2人ひと組で、僕と紫道は別エリアを回る。 「高畑さんって……ゲイなんですよね?」 「そ。僕は男だけ」  一緒に見回り中の1年の岡部に、確認するように尋ねられ。頷いた。  風紀委員に性指向の申告義務はないけど。本人が誰かに聞かれて答えて。それが人づてに、委員内で自然に共有される情報になってる。  ゲイかバイかノンケか。  誰がどういう性指向なのか、知ってたほうがいろいろ便利なのは同意。  普段の風紀の仕事を割り振るのとか。問題発生時の対処の適材適所とか。  一年間、委員同士がうまくコミュニケーション取り合うのにもね。 「あの、翔太(しょうた)……木谷が。高畑さんは、ああ見えてケンカ強いし……お前襲うのくらい余裕だから、言動に気をつけろって……」  僕よりデカくてガッシリした身体の岡部が、歯切れ悪く言った。 「大丈夫だよ」  疑い半分警戒半分って瞳をした岡部を安心させるように、笑顔を見せる。 「翔太はきみをからかったの」 「あ、なんだ。高畑さん、小柄でかわいい感じだし。そうだよな……」  何を納得したのか、わからなくもない。でもソレ、ちゃんと訂正してあげなきゃね。 「風紀委員なのに、学園内できみを襲うわけないでしょ。襲ってもいい場所でなら、力ずくできみを犯せるけど」 「え……」 「ゴツい男を泣かせて抱くのが好みなの。ノンケなんでしょ? 新しい世界、知りたくない?」 「いや、けっこう……です」  ホッとした様子は消え、顔を強張らせる岡部。  怯えと嫌悪が入ったノンケの表情は見慣れてる。視界が狭いんだなぁとは思うけど、ムカつくとかはない。 「俺は、女が好きなんで」 「彼女いるの?」 「……まだ、いません。がんばります」  世間話をしつつ、警戒ポイントをチェックして。昇降口に戻ってきた。  第二校舎は出し物に使われてる教室が多くて、見回る場所は少ないから早めに済み。  次は校庭だ。 「もうすぐ、選挙の結果が出ますね」  岡部の視線を追って壁の時計を見ると、3時まであと9分。  見回り中に発表だから、紫道の反応は見れないけど。  將悟が生徒会長になって自分が風紀委員長になるって、早くから覚悟してるだろうし。將悟ほど嫌がってるわけじゃないし。  やっぱり、お祝いかな。  賭けのペナルティとか報酬じゃなく、何かご褒美があったほうがいい……何にしようか。  紫道が喜びそうなモノ。  夜までに、考えておかないとね。

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